eぶらあぼ 2017.4月号
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70バッハ 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータ 全曲演奏会4/16(日)14:00 近江楽堂(東京オペラシティ3F)問 森音楽事務所03-6434-1371/カンフェティチケットセンター0120-240-540http://www.mori-music.com/桜井大士(ヴァイオリン)バッハ無伴奏6曲完奏に挑む取材・文:林 昌英Interview あらゆるヴァイオリニストにとって“聖書”にも例えられる、J.S.バッハの「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」。全6曲を一日で弾き切る奏者はまだ希少な存在だが、この4月、新たにその6曲完奏の高峰に挑むのが気鋭の俊才、桜井大士である。 東京芸術大学附属高校から同大学・大学院に学び、修了の2012年からソリスト活動を本格的に開始。幼少期よりメニューインやエネスコのバッハの録音を愛聴し、「幼稚園の文集からヴァイオリニストになりたいと書き続けていました」という桜井。ヴァイオリンとバッハへの愛情は当時から確固としたものだった。 「小学生のときに参加したコンクールでバッハの無伴奏が課題曲になり、『繰り返し(リピート)は省略すること』という規定でしたが、舞台で弾き始めたら“リピートしないとバッハに失礼なのでは”と急に思いはじめ、本当にリピートしてしまって(笑)。当然結果は落選で当時の先生にはひどく怒られましたが、バッハの音楽が何より大切というスタンスはその頃から今までまったく変わりません」 そんな彼だけに、バッハ無伴奏6曲完奏への意気込みは並大抵ではない。 「すべてが聴きどころと言える最高の傑作集。無伴奏6曲全体を大きなひとつの作品ととらえ、全体像を見通して演奏することが不可欠と考えています。そのため、全6曲を弾くことにこだわりたいし、お客様にひとつの芸術作品として届けたい。また、実は20代最後のリサイタルでもあります。今後も年齢を重ねながらバッハを追究し続けますが、30歳目前のいまだからこそできる表現が必ずあるはずで、このタイミングで実現できて本当に幸せです」 公演チラシに「“古”の巨匠を彷彿とさせる」とあるが、たしかに表現は濃厚で緩急自在、懐かしさを感じさせる一方、技巧は正確、音色には透明感もある。スタイルにとらわれない、真の“歌心”ある演奏が強みだ。 「最先端の演奏の研究もしてきましたし、それらは吸収しつつも、いざひとりで演奏するとなると、自然と内面から湧き出る、訴えかけるものになるのです。ヴァイオリンは歌の楽器。クラシックもポップスも自分の中で垣根はありませんし、メロディを重視して幅広く取り組んでいきます」 バンド「エルシエロ2020」でのピアソラ演奏にも情熱を注ぎ、取り組む作曲家はすべて好き、と音楽的視野は広い。とはいえバッハへの思いはやはり格別で、「バッハの楽譜を見ていると、モノクロの譜面からいろんな色彩が浮かびあがり、食事も忘れて夢中になってしまいます」と笑顔で語る桜井。その熱意と覚悟をライヴで見届けたい。川崎・しんゆり芸術祭 アルテリッカしんゆり2017 フィナーレ公演東京交響楽団演奏会締めくくりはロシアの名曲で華やかに文:林 昌英5/7(日)15:00 昭和音楽大学テアトロ・ジーリオ・ショウワ問 アルテリッカしんゆりチケットセンター044-955-3100http://www.artericca-shinyuri.com/小川典子 ©S.Mitsuta大友直人 川崎市北部を中心に開催される総合芸術祭「アルテリッカしんゆり」は、2009年の創設以来、当地域の文化的な春の風物詩となっている。9回目を迎える今年は新百合ヶ丘駅周辺の6施設をはじめ、計8施設で、オペラ、コンサートから、バレエ、演劇、能・狂言、落語まで、ジャンルを超えた30演目37公演が開催される。 そして、本芸術祭の「フィナーレ公演」が、昭和音楽大学テアトロ・ジーリオ・ショウワで行われる東京交響楽団演奏会だ。指揮は同楽団名誉客演指揮者の大友直人。気心知れたコンビで手堅さと余裕が両立する好演が期待できる。川崎市にゆかりの深い名ピアニスト小川典子も共演し、その名技で華やかさを増してくれる。「ロシア音楽への旅」と題されたプログラムは、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番、ムソルグスキー(ラヴェル編)「展覧会の絵」など、だれもが楽しめる名曲ぞろい。ゴールデンウィークの最後、新百合ヶ丘でロシアの風を感じてはいかが。

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