eぶらあぼ 2017.4月号
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45ナタリー・デセイ(ソプラノ)&フィリップ・カサール(ピアノ)女性たちの心模様を鮮やかに描く文:岸 純信(オペラ研究家)ジョナサン・ノット(指揮) 東京交響楽団ノットならではの最高にユニークなプログラミング文:飯尾洋一4/19(水)19:00 東京オペラシティ コンサートホール問 東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999 http://www.operacity.jp/第97回 東京オペラシティシリーズ 5/13(土)14:00 東京オペラシティ コンサートホール問 TOKYO SYMPHONYチケットセンター044-520-1511 http://tokyosymphony.jp/ 数年前にオペラの舞台から離れ、いまはコンサートに専念するソプラノ、ナタリー・デセイ。「歌劇場のお仕事は拘束が長いから。年齢も重ねたし…」とインタビューで答えていたが、その裏には「家族と過ごす時間を取りたい」という強い願望があったよう。初来日の折に、「息子と娘がいるので、子育てに体力が要るの」と呟いた彼女の、優しい笑顔が今も忘れられずにいる。 さて、この4月、デセイが待望の来日リサイタルを、ピアノのフィリップ・カサールと共に開催する。プログラムで目につくのは、彼女が学生時代から熱心に学ぶドイツ語の歌曲。シューベルトがゲーテの詩に曲をつけた〈ズライカⅠ〉や〈糸を紡ぐグレートヒェン〉では、恋に震える娘心が様々な声音で表現されるはず。また、20世紀のプフィッツナーの珍しい「古い歌」全8曲も注目の的である。15分もかからない短い歌曲集だが、恋心が素直にはじけるものから、 蜜月時代から黄金時代へ。ジョナサン・ノットと東京交響楽団は今もっとも聴き逃せないコンビといってもいいだろう。精彩に富んだ演奏に加えて、プログラムのおもしろさもこのコンビの魅力のひとつ。コンサート全体がまるでひとつの作品になっているかのように感じられることもしばしばある。 5月の東京オペラシティシリーズは、まさにそんなノットの本領が発揮されたプログラムだ。映画音楽として広く知られるバーナード・ハーマン(パーマー編)の「タクシードライバー」で始まるというのも意表をついているが、これに続くのが現代イギリスを代表する作曲家のひとり、ハリソン・バートウィッスルによる「パニック」。副題に「アルト・サクソフォン、ジャズ・ドラムと管打楽器のための酒神讃歌」とある革新的な作品である(ドラムス:萱谷亮一)。このまったく背景が異なる両曲をつなぐのはサクソフォン(アルト・サクソフォン:波ユーモラスな勇ましい口調まで…。乙女の千変万化の心模様が、鮮やかな歌いぶりからくっきりと浮かび上がるに違いない。 このほか、母国フランスの曲も歌われる予定。憂色の濃いショーソンの〈終わりなき歌〉、ドビュッシーの皮肉交じり多江史朗)。映画『タクシードライバー』では、若き日のロバート・デ・ニーロが孤独な若者を演じていたが、その孤独感を際立たせていたのがサックスのソロだった。そこにバートウィッスル作品を続けるという発想がユニーク。バートウィッスルに『タクシードライバー』のの〈死化粧〉など、感情を繊細に歌い綴るメロディと共に、グノーの歌劇《ファウスト》の名アリア〈宝石の歌〉も披露するとのこと。予期せぬ贈り物にときめくマルグリートが、細かい音符を真珠の首飾りのように美しく繋げて、声の光沢をじんわりと放つさまに浸ってみたい。世界が侵食していくのではないかと期待するのだが…。 これに続くのが、ベートーヴェンの交響曲第8番というのも実にエキサイティング。こんなにも晴れやかで快活な作品をおしまいに置いたその意図は? 聴けば必ず発見があるはず。©Marc Ribes licensed to Virgin Classics萱谷亮一波多江史朗ジョナサン・ノット ©K.Miura

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