eぶらあぼ 2017.3月号
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ドイツの名匠が聴かせる、シューベルトの多様な側面取材・文:柴田克彦 写真:寺司正彦Information東京春祭 合唱の芸術シリーズ vol.4シューベルト 《ミサ曲》 ~夭折の作曲家による、最後のミサ曲シューベルト:水上の精霊の歌 D.714シューベルト(ウェーベルン編):《6つのドイツ舞曲》 D.820シューベルト:ミサ曲 第6番 変ホ長調 D.9504/9(日)15:00 東京文化会館指揮:ウルフ・シルマーソプラノ:オレナ・トカール メゾ・ソプラノ:ウォリス・ジュンタテノール:パトリック・フォーゲル バリトン:ペーター・シェーネ管弦楽:東京都交響楽団 合唱:東京オペラシンガーズ問 東京・春・音楽祭チケットサービス03-3322-9966 http://www.tokyo-harusai.com/Proleドイツ・エッシェンハウゼン生まれ。ハンブルク音楽演劇大学でホルスト・シュタイン、クリストフ・フォン・ドホナーニ、ジェルジュ・リゲティらに師事。マンハイム国民劇場を経て、ウィーン国立歌劇場でロリン・マゼールのアシスタントとなった後、ハウス・コンダクターとして多くの公演を指揮。ウィーン国立歌劇場のレジデント・コンダクター、デンマーク放送交響楽団の音楽監督、ミュンヘン放送管弦楽団の芸術監督(2017年まで)等を歴任。09/10年シーズンからライプツィヒ歌劇場の音楽監督、11年8月からは総監督も務めている。します。最後のミサ曲第6番は、オーストリア人の日常生活における宗教的要素の強さを示すもの。ただ音楽自体は、教会が期待する内容を超越し、深いテーマがエモーショナルかつドラマティックに表現されています」 各曲についてさらに語ってもらおう。まずは「水上の精霊の歌」から。「ヨーロッパでも知られていませんが、シューベルト自身は力を入れて取り組んだ作品です。前後半はリリックな音楽ですが、中間部では人生の波や嵐が表現されます。いわば魂や精神を表す曲であり、コンサートの冒頭はプライベートなメディテーションの場となるでしょう」 次いで管弦楽による「6つのドイツ舞曲」。「オリジナルはピアノ曲です。前曲のプライベートな部分から、この曲でダンスという公共的な部分に移る、その対照が効果を発揮します。ただそれでも音楽自体はメディテーションの要素を残しています」 ミサ曲第6番は、亡くなる年に書かれた50分を超える大作だ。「ヨーロッパのキリスト教国には、宗教的な行事のひとつとして、祝祭的な大きなミサがありますが、この曲はそうした儀式にふさわしいものです。規律的な面を有しながらも、フルオーケストラを用いた大きな音楽であるため、聴く方それぞれの立場で接点をもつことが可能です。また2つのフーガには、シューベルトがホモフォニーだけの作曲家ではないことが示されていますし、感情的な深みのある音楽ですから、最後まで集中して聴くことができます」 合唱は、《パルジファル》と同じく東京オペラシンガーズが務める。「これは嬉しいですね。前回、素晴らしいコーラスでした。私はコーラスに、言葉の明確さとダイナミクスの明瞭さを求めます。例えばミサ曲の『Gloria in excelsis~』における『sis』。こうした微妙な部分を皆がきちんと歌えれば、動きのある音楽になります」 東京都交響楽団とは初の共演となる。「これまで指揮したNHK交響楽団と東京フィルハーモニー交響楽団は、非常にレベルが高く、ヨーロッパの作品の中にメンタルな面で入っていく姿勢を感じましたので、今回も期待しています。オーケストラに求めるのは、オーストリア的な柔らかい響きと間合い。シューベルト作品の難しさは、技術面よりも“響き”です」 女声ソリストは、ライプツィヒ歌劇場に所属する俊英たち。「ソプラノのオレナ・トカールは、ミュンヘン国際音楽コンクールで優勝した、世界中の有名歌劇場が注目する逸材です。今回は日本に紹介する理想的な機会だと考えています。メゾソプラノのウォリス・ジュンタは、《チェネレントラ》でデビューした才能豊かなソリスト。これからカルメンや《ばらの騎士》のオクタヴィアンを歌います」 ライプツィヒ歌劇場専属歌手のパトリック・フォーゲル(テノール)と、20以上の歌劇場で活躍するペーター・シェーネ(バリトン)も参加する。 彼が重ねて「シューベルトの様々な側面や内面的な感情を紹介したい」と話す本公演。万全の布陣が奏でる貴重なプログラムを、ぜひ体験したい。 なお、早くも翌年の東京春祭への登場も決まっているシルマー。演目は「東京春祭ワーグナー・シリーズ vol.9 《ローエングリン》」だ。

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