eぶらあぼ 2017.3月号
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71オペラ宅配便シリーズⅩⅤ ぎゅぎゅっとオペラ Digitalyricaプッチーニ:《蝶々夫人》(原語上演/ハイライト版)3/12(日)16:00 ヨコスカ・ベイサイド・ポケット問 横須賀芸術劇場046-823-9999 http://www.yokosuka-arts.or.jp/高田正人(テノール)ピンカートンの若々しく情熱的な響きをお聴かせします取材・文:岸 純信(オペラ研究家)Interview 爽やかな声音と人間味溢れるキャラクターで注目のオペラ歌手、高田正人。上背ある舞台姿ゆえに、色男役が多いテノールだが、その高田が3月にヨコスカ・ベイサイド・ポケットで演じるのが《蝶々夫人》の海軍士官ピンカートン。ハイライト版の上演ながら、情熱的な聴きどころはたっぷりと用意されている! 「以前、ニューヨークに留学していた時に“常にハッピーであり、他者に寛容でありたい”というアメリカ人の美学を感じました。ポジティブに、なんでも受け入れようとする姿勢で物事に向かう人々ですね。ピンカートンは陽気で単純な気性の持ち主です。蝶々さんも彼の“悪意のなさ”に惹かれたのでしょうか。物事を深く多面的に見るタイプではなく、行動も軽率ですが、まあ、彼と同世代の若き軍人たちも、当時は同じようなことをしていたのだと思います」 言葉を選んでゆっくり語る高田。その面差しには、オペラの役柄をじっくり解釈しようという誠実さが覗く。タイトルロールを歌うのは小川里美。 「一方の蝶々さんですが、一人の男性と添い遂げたいという彼女のまっすぐな思いは、本質的には今の日本人女性にも通ずるものがあると思いますね…。話はちょっと違いますが、オペラ鑑賞教室などで《蝶々夫人》を上演すると、ふだん威勢を張ってカッコつけているような(笑)高校生たちも、男女関係なく、終演後に涙ぐんでいたりします。時代も世代も超えて伝わるドラマだと改めて思うのです。ちなみに、ピンカートンは、イタリアではテノールが舞台デビューで歌うことが多い役です。留学先の先生に『音が重いのに何故でしょうか?』と尋ねたところ、『ピンカートンは若くてシンプルな人間性の持ち主だし、登場の自由奔放なアリアから蝶々さんとの愛の二重唱までは、特に若々しい響きで聴かせなければならない。君の声にも合うよ!』と言われました。後半では彼も成長し、スズキやシャープレスと“悔悟の三重唱”を歌いますが、でも、最後のアリア〈さようなら愛の巣よ〉にはセンチメンタルなところが残っていて…そこもピンカートンらしいな、と」。 今回は約400席の緊密な空間での上演。エレクトーン(清水のりこ)が多彩な音色を駆使して伴奏する。 「エレクトーンだと、音の波に乗る感じで心地よく歌えます。それに、名作オペラをほどよいサイズの空間で観ていただくと、歌い手の表情や動きが細部までご覧いただけますし、舞台の我々もお客さまの視線を感じたり、表情に心動かされたりするのです。ベイサイド・ポケットの舞台に立つたびに、客席と一緒にドラマを作っていける場だと実感します。《蝶々夫人》、ぜひご覧ください!」3/24(金)19:00 いずみホール問 大阪アートエージェンシー06-6459-9612http://o-art-agency.com/KEIKO ABE 記念コンサート 安倍圭子 マリンバと歩んだ70年“レジェンド”の功績を称えて文:笹田和人安倍圭子 彼女こそが、マリンバ界の“レジェンド”だ。独創的な奏法を次々と編み出す一方、数多くの作曲家に新作を委嘱、さらには、自身の手になるオリジナル作品も発表し、世界60ヵ国で演奏活動を展開、マリンバに新たな地平をもたらした安倍圭子。マリンバと共に歩んだ70年の道のりを辿る記念コンサートが開かれる。 ステージには、主役の安倍はもちろん、世界でも珍しい“弾き語り”を実践する実娘の木村恭子、安倍の薫陶を受けた臼杵美智代や伊勢美香ら9人のマリンビストと3人のパーカッショニストが集結。ソロのための「古代からの手紙」(2000)に始まり、2台のマリンバのための「山をわたる風の詩Ⅱ」(1997)、マリンバ・アンサンブルと2人の打楽器奏者のための「ザ・ウェーブ インプレッションズⅡ」(2008)まで、安倍が作・編曲を手掛けた、彩り豊かな10作品が披露される。 「マリンバと歩む道こそ、自分の天職」。そう言い切る世界的アーティストの軌跡を、その作品と演奏で体感できる、貴重な機会となろう。

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