eぶらあぼ 2017.3月号
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43すみだ平和祈念コンサート2017―すみだ×ベルリン鎮魂の想いを祈りに込めて文:江藤光紀アラン・ギルバート(指揮) 東京都交響楽団現代版「千夜一夜物語」のシリアスなメッセージ文:オヤマダアツシ上岡敏之(指揮) 新日本フィルハーモニー交響楽団 3/11(土)18:00エリアフ・インバル(指揮) ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団 3/13(月)19:00すみだトリフォニーホール問 トリフォニーホールチケットセンター03-5608-1212 http://www.triphony.com/第828回 定期演奏会 Aシリーズ4/17(月)19:00 東京文化会館第829回 定期演奏会 Bシリーズ4/18(火)19:00 東京オペラシティ コンサートホール問 都響ガイド03-3822-0727http://www.tmso.or.jp/ すみだトリフォニーホールがある一帯は、昔から住宅の密集する下町で、20世紀に2度も甚大な災害を経験している。1923年の関東大震災では、地震を何とか生き延びた住人達を紅蓮の火災旋風が襲い、45年の東京大空襲では米軍による焼夷弾が再び町を灰燼へと変えた。JR錦糸町駅前の錦糸公園は震災復興事業として作られたが、皮肉なことに45年3月10日の下町大空襲で被害者が多数埋葬される場となった。錦糸町駅からすみだトリフォニーに行く途中、ビルの合間からスカイツリーが顔を出す現在の繁栄ぶりからは想像しがたいが、地震も戦争も依然アクチュアルな時代に生きていることを忘れてなるまい。 すみだトリフォニーホール開館20周年の『すみだ平和祈念コンサート2017―すみだ×ベルリン』は、マーラーの大交響曲を通じて歴史に祈りを捧げる機会となる。まずは3月11日、トリフォニーを本拠にする新日本フィルが昨秋 生誕70年というアニヴァーサリー・イヤーを迎えたジョン・アダムズ。彼の“問題作”「シェへラザード.2」が世界初演コンビによっていよいよ日本初演される。東京都交響楽団の新シーズン開幕を告げる4月の定期演奏会(Aシリーズ、Bシリーズが同一プログラム)は、特別な興奮が待っているコンサートだ。リムスキー=コルサコフの名曲同様、『アラビアン・ナイト』のシェへラザード妃にインスパイアされた作品だが、アダムズはそれを女性に対するさまざまなハラスメントという問題に置き換え、現代社会へ警鐘を鳴らす。 彼は妃を「虐げられた女性」の象徴だと捉えたのだろう。抑圧からの解放を全4楽章の音楽で伝えるこの「劇的交響曲」は、リーラ・ジョセフォウィッツとアラン・ギルバートにより2015年に初演され、ジョセフォウィッツはノンサッチ・レーベルへ録音も行っている。シリアスなテーマではあるものの、曲調はプロコより音楽監督についた上岡敏之と、交響曲第6番「悲劇的」で運命のいかずちを振り落とす。東日本大震災その日の晩に、ハーディングと新日本フィルがマーラーの第5番を演奏したのは伝説的なエピソードだが、これも錦糸町という場所との因縁を感じずにはいられない。3月13日のコンサートでは、エリアフ・インバルがベルリン・コンツェルトフィエフやウォルトン、ショスタコーヴィチなどを想起させるものだ。ドラマティックな流れの中に生まれては消えるさまざまな音楽が、聴き手の心に強いメッセージを刻印することだろう。 前半には、繊細極まりないオーケストレーションが施された、ラヴェルのバレエ音楽「マ・メール・ロワ」を。CD等ではわからない隠し味的な音や立ち上ハウス管と共にこの曲を取り上げる。イスラエル出身のインバル、旧東独圏にあったコンツェルトハウス管は、違った形であれやはり激動の20世紀を生き抜いてきた。トランペットのファンファーレは現代への警句として、甘美なるアダージェットは災いによってこの地に眠る人々への慰撫として鳴り響くだろう。る香気など、貴重な生演奏ゆえのサウンドを、お聴き逃しなく。エリアフ・インバル ©Sverdlovsk State Philharmonyリーラ・ジョセフォウィッツ ©Chris Lee上岡敏之 ©K.Miuraアラン・ギルバート ©堀田力丸

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