eぶらあぼ 2017.3月号
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37ハイドンマラソンが良き効果をもたらしています取材・文:柴田克彦 写真:武藤 章 今年4月から、日本センチュリー交響楽団の首席指揮者として4年目のシーズンに入る飯森範親。山形交響楽団等で実績をあげてきた彼は今、同楽団での活動にも相当な手応えを感じている。 「まず大きな成果は、昨年10月完成した豊中市立文化芸術センターの運営に、(楽団が)指定管理者として携わるようになったこと。また3年の間に新しい理事の方に何名か加わっていただいたこと。これは今後の活動に様々な可能性を与えてくれると確信しています。演奏面では、開始から2年が経つハイドンマラソン(交響曲全曲演奏)を通して培われた響きの透明感、細やかなアンサンブル等が、ハイドン以外の作品に顕著な成果をもたらしているのを実感しています。シリーズ自体も、いずみホールに500名以上の固定客がつくという、大阪では稀有の状況。さらに2年前から、ザ・シンフォニーホールでの定期演奏会も1回2公演に増やし、金曜日の夜と土曜日の昼とに分けることで、新しい客層を獲得しつつあります」 2017/18シーズンの定期演奏会の陣容も、ハイドンマラソンと連動している。 「その2年間の成果を随所に発揮できるようなプログラムを組んでいます。例えば来年1月のブルックナーの交響曲第4番。ハイドンで実践してきたクリアな響きを室内楽的なアプローチに反映させれば、オーストリアの山々の冷たく澄んだ空気感や、春先に溶けた氷が露となって輝くような響きが実現し、新たなファンを開拓できると思うのです。またこうしたコンセプトは、客演する指揮者にも伝えています」 この方向性の好例が、幕開けの4月定期。エロールの《ザンパ》序曲、ショパンのピアノ協奏曲第1番、モーツァルトの「レ・プティ・リアン」と交響曲第31番「パリ」が並ぶ、捻りの効いた「フレンチ・プログラム」だ。 「お洒落でしょう(笑)。まずはハイドンとの関連でモーツァルトを取り上げることを決め、次いでコンチェルトの選曲を考えました。ソリストの江崎昌子さんは、ポーランドのシマノフスキ・コンクールで優勝し、ご主人もポーランド人。私もショパンの2番をご一緒し、ポーランド語に由来するリズム感を自然に表現できる稀な奏者だと思っていますので、今度は同じく1番を選びました。この曲はショパンがパリ・デビュー時に華々しい成功を収めた作品。そして彼がパリに来た1831年に当地で作曲されたのが《ザンパ》です。序曲は、途中のメロディがかつてFM番組のテーマ曲でしたから、聞き覚えのある方も多いでしょう」 後半のモーツァルトの2曲もパリで書かれた作品。 「当地のオーケストラに即した、それまでにない編成の大きさが魅力。『パリ』は、ラテン系の聴衆が体を動かしながら聴けるような音楽が意図されています。『レ・プティ・リアン』は隠れた名曲。バレエ組曲の形態で全21曲の内、偽作といわれる約半数は概ね割愛されますが、今回はあえて全曲を演奏します。偽作もよく出来ているので、どう感じられるか? 聴く方にご判断いただこうと思うのです」 ジョージア(グルジア)人作曲家カンチェリの「ステュクス」を取り上げる9月定期も要注目。同曲は、混声合唱とヴィオラ独奏(首席奏者の丸山奏)を含む約45分の作品で、戦慄的な響きや神秘的な美しさが耳を奪う。 「非常にインパクトが強い作品で、私が2015年に東響で演奏した際も反響が大きく、反応も肯定的でした。内容は祈り系の曲が中心ながらも、電子楽器やエレキベースが入り、ロックから派生した合唱も出てきますので、大阪の皆さんにも受け入れられるのではないかと。さらにはカンチェリとの繋がりを鑑み、録音を聴いてあまりに凄かったジョージアのピアニスト、ジョージ・ヴァチナーゼさんを招いて、得意とするラフマニノフの協奏曲第3番を弾いていただきます」 この3月には、今シーズン最後のハイドンマラソンを開催し、「打楽器が活躍する派手な交響曲」=「軍隊」や、「チェンバロと弦楽器の掛け合いが興味深い」第16番等を披露。第1弾が絶賛を博したSACDによる世界初の全集録音と併せて、期待はさらに膨らむ。 意欲的な飯森と「元々ポテンシャルは高い上に、音色が研ぎ澄まされ、評価も上がっている」センチュリー響から、ますます目が離せない。Information日本センチュリー交響楽団第216回定期演奏会 4/21(金)19:00、4/22(土)14:00第219回定期演奏会 9/15(金)19:00、9/16(土)14:00ザ・シンフォニーホール問 センチュリー・チケットサービス06-6868-0591http://www.century-orchestra.jp/

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