eぶらあぼ 2017.3月号
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34アンドレア・バッティストーニAndrea Battistoni/指揮『春の祭典』を瑞々しいエネルギーそのままに、幻想的な物語としても表現したい取材・文:千葉さとし 写真:中村風詩人 近年、活躍が目立つ若手イタリア人指揮者の中でも、演奏会に録音にテレビにと、際立った活躍を見せるアンドレア・バッティストーニ。東京フィルハーモニー交響楽団との初共演は、2012年の東京二期会オペラ《ナブッコ》。以来、相思相愛の仲となった東京フィルとは共演を重ねるごとに関係も深まり、昨年10月には首席指揮者に就任したことはご存知のとおりだ。“彼のオーケストラ”となった東京フィルの新シーズンについて、バッティストーニは胸を張る。「素晴らしいマエストロたちを迎えて、幅広く多くの人たちに楽しんでもらえるシーズンとなるでしょう。なかでも、マエストロ・チョン・ミョンフンには偉大な伝統的作品を、ミハイル・プレトニョフにはロシアと北欧の作品を担当してもらうことで、幅のあるいいプログラムが揃いました」 彼自身が指揮する定期演奏会で特に注目されるのは「春の祭典」(5月)とグルダの「コンチェルト・フォー・マイセルフ」(18年3月)の2作品だろう。「『春の祭典』は、これから私たちが20世紀の音楽を多く演奏していくなかで、重要となる作品です。この曲はストラヴィンスキーによりとてもよく書かれていますから、かつて流行した分析的な演奏や、意味や表現を排除した音響的な側面を重視した演奏、といった様々な解釈が可能です。ですが、私はこのストラヴィンスキー作品のもつ若く瑞々しいエネルギーそのままに表現したいと思っています」 これまで演奏してきたチャイコフスキーやラフマニノフなどのロシア音楽と、その表現方向は変わるのだろうか?「たしかに『春の祭典』はそれまでのロシア音楽に比べるとモダンな作品ですが、バレエの筋書きは“選ばれた乙女が生贄として熱狂の頂点で死んでいく”というものです。だから私は幻想的な物語としても表現したいですね。この解釈は振付のニジンスキーに近く、ロマンティックな作品ともさほど遠くないものです」 ジャンルにとらわれず広く聴き手を招くバッティストーニが、同じくボーダーレスに活躍したフリードリヒ・グルダの奔放な作品を用意し、ジャズとクラシックで活躍する小曽根真を迎える。これ以上の魅惑のコンビネーションは、そうそうない。「最近グルダの作品としては、チェロ協奏曲が多く演奏されるようになってきました。でも『コンチェルト・フォー・マイセルフ』を、ジャズをメインの活動とするピアニストとオーケストラの定期演奏会で演奏するなんて、なかなかないでしょう?」 バッティストーニは定期演奏会のほか『平日・休日の午後のコンサート』にも登場する。音楽だけでなくトークもあり人気のシリーズだ。昨年9月の公演では、“イタリアオペラとベートーヴェン”をテーマにした。「ベートーヴェンの影響が、ドイツ音楽だけではなくイタリア音楽にも大きいものだったことを示したかったのです。ヴェルディは勉強家でモーツァルトやベートーヴェンをよく研究していましたし、ロッシーニはベートーヴェンと同時代人ですからね」 トークを交えたコンサートは好きで楽しいというバッティストーニが次に用意したテーマは“チャイコフスキーの誘惑”“ヴェローナより愛をこめて(全2回)”の二つ。愛するロシア音楽、そして、生まれ育った街ゆかりの愛の物語に、どちらも雄弁な語りと充実した音楽で楽しませてくれるだろう。 バッティストーニと東京フィルはオペラや声楽の大作でも活躍する。2月に演奏する「レクイエム」から9月のBunkamuraでの《オテロ》(演奏会形式)、東京二期会《アイーダ》(2018年3月)と継続してヴェルディ後期の作品に取組む。昨年10月の定期演奏会で披露した《イリス》(演奏会形式)に続いて彼のオペラ指揮者としての手腕も披露されるのだが、そこには、東京フィルへの絶大なる信頼がある。「東京フィルがその魅力を十分に表現できるオーケストラだからこそ、ヴェルディを取り上げるのです。キャストとも力を合わせていい公演にしますよ」 バッティストーニのさらなる飛躍の始まりに、そして歴史ある東京フィルの新時代の幕開けに期待しようではないか。

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