eぶらあぼ 2017.2月号
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Presented by Kanagawa Arts Foundation 1984年生まれの川瀬賢太郎は、今最も注目されている日本人指揮者のひとり。数年先までスケジュールがいっぱいの売れっ子だ。オペラにも積極的に取り組み、昨秋には日生劇場の《後宮からの逃走》を成功に導いた。この3月には、神奈川県民ホール オペラシリーズ 2017で初めて《魔笛》を振る。 「《魔笛》は不思議なオペラですよね。名曲の連続で、飽きさせない、いい時間を過ごさせてくれる作品なのに、何が言いたいのか分からないところがある。《フィガロの結婚》や《後宮からの逃走》なら、最後にたどりつく“赦し”がテーマだとわかるけれど、《魔笛》の場合、全体を通した時に、具体的に示されていないのです。もちろん、モーツァルトが心酔していたフリーメイソンとの関連は、全曲に散りばめられていますけれど。それも含めて、投げかけてくるものが複数ある作品です」 とはいえ川瀬は、《魔笛》にテーマがない、と考えているわけではない。それどころか、人類最大のテーマとでもいうべきものを《魔笛》に見ている。 「このオペラは“愛”のオペラだと思います。劇中で、光と闇、明と暗が描かれているけれど、じゃあ、光や明が善で、闇や暗が悪だと誰が決めたのか。闇がなければ光は存在しない。どちらがいい悪いじゃなくて、両者は切り離せないものなんです。考え方はひとつじゃない。その混沌とした世界を、あるカップルが“愛”によって乗り越えようとする。それこそ《魔笛》です。この作品は社会の縮図です。みんなが《魔笛》にあるような多面性を共有している。そのわかりにくい世界を乗り越えるパワーを持っているのは“愛”しかない」 そんな《魔笛》を、川瀬は、今だからこそ上演する価値がある作品だと考えている。 「モーツァルトが《魔笛》においてメッセージとして伝えたかったことは、いまだに達成できていないわけです。だからこそ、今この時代に上演する意味がある。今の時代は、自分を持っていない人も多くて、情報に流されやすいですよね。そんな時代だからこそ、“愛”がひとつのテーマとして引き立つと思う」 実際の演奏面では、常任指揮者を務める神奈川フィルと共演できることが大きな強みになりそうだ。 「よく指揮しているオーケストラですから、サウンドのイメージはできています。お互い、やりたいことを想像しあえる関係にありますからね。編成は小さめにして、機敏に動けるようにしたい。音量が必要な時は思い切り鳴らせばいいし、そのほうが、大きな編成にするよりオーケストラが生き生きとするんです」 演出は世界的振付家・ダンサーの勅使川原三郎。川瀬によると、「序曲が終わってから最後まで、ダンサーが歌手について踊っていくユニークなプロダクション。コスチュームも時代を超えていて面白い」そう。このプロダクションは神奈川の前に大分でも上演されるが、そのような共同制作を通じて、「今の日本のオペラ上演のシステムを変える橋渡しをしたい」と意気込む。 「オペラは社会的に重要なもの」と語る川瀬。その彼と勅使川原、二人の才人が火花を散らす今回の《魔笛》、大注目公演であることは間違いない。《魔笛》は今の混沌とした時代でこそ上演する意味があると思います取材・文:加藤浩子©Yoshinori Kurosawa神奈川県民ホール・iichiko総合文化センター・東京二期会・神奈川フィルハーモニー管弦楽団 共同制作公演神奈川県民ホール オペラシリーズ 2017モーツァルト《魔笛》全2幕・ドイツ語上演・字幕付・日本語ナレーション3/18(土)、3/19(日)各日14:00 神奈川県民ホール問 チケットかながわ0570-015-415http://www.kanagawa-arts.or.jp/特設ウェブサイトhttp://www.kanagawa-kenminhall.com/mateki/大分公演3/11(土)14:00 iichiko総合文化センター(097-533-4004)http://www.emo.or.jp/Kentaro Kawase/指揮

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