eぶらあぼ 2017.1月号
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文:渡辺謙太郎 写真:中村風詩人引き算の美学が生み出した空間で洗練されたカクテルを 「バーは20年やって、初めてワンサイクル。カウンターで出会った男女が結婚し、その間に生まれたお子さんが成人する。そして、カウンターに親子3人で座って初めてのお酒を楽しむ。当店でもようやくそんな風景が見られるようになってきました」 そう穏やかに語るのは、「Bar Caesarion(バー・カエサリオン)」のオーナー・田中利明さん。彼は、銀座の名店「資生堂パーラー・バー・ロオジエ」を経て、1993年に代々木上原で独立。店名は、カエサルとクレオパトラの子供とも言われるエジプトのファラオ・プトレマイオス15世の異名「小カエサル」を意味している。 白いバーコートをまとった聡明な立ち姿と接客。そして、美しく洗練されたシェイクやステアをお手本にする有名バーテンダーも多い。その極意を尋ねてみた。 「まず、“冷た過ぎないこと”。冷た過ぎると味が単調になってしまいますから。私が好きなのは、素材の香りが立って、アルコール度数の割に口当たりが柔らかくて飲みやすい、“真綿で首を絞めるような”カクテル(笑)。そうした構想は、湯島の『Bar Est!(バー・エスト)』の渡辺昭男さんから学びました」 そんな田中さんに今回作ってもらったのが、ロングの「バイオレット・フィズ」と、ショートの「マティーニ」。「バイオレット・フィズ」は、パルフェタムール(柑橘類に、ニオイスミレ、アーモンド、バニラなどを加えたリキュール)とレモン果汁&砂糖をシェイクしてグラスに注ぎ、ソーダで満たして作る。 「アルコールに甘味と酸味を加えて炭酸水で割ったフィズは、カクテルの基本。スミレの香りとレモンの風味が効いた爽やかな口当たりに作るのがポイントですね。また、バーは非日常的な空間なので、それにふさわしい非日常的な紫色をどう出すかも重要です」 そして、カクテルの王様「マティーニ」。この1杯にも彼らしいこだわりが随所に光る。 「マティーニは、ジンとベルモットと水(氷)のカクテル。ジンとベルモットの大海を、自分が氷=繋ぎ役の気分でスーッと潜り抜けていくイメージですね。味わいにはふくよかさと厚みが欲しいので、ジンはゴードン、ベルモットはノイリーを使っています。あと、オリーヴはあくまで脇役なので、あまり美味過ぎない方がいいでしょう(笑)」 黒が基調の内装と、BGMを一切かけない「Caesarion」は、さながら茶室のよう。田中さんはそのコンセプトを、「引き算の美学で、少しずつ色々なものを削っていったら、いつの間にかこうなりました」と笑いながら語る。 この美しく静かなカウンターで演奏会の後の余韻に酔いしれるひとときは、まさに“珠玉”の名にふさわしい。Bar Caesarion(バー・カエサリオン) 東京都渋谷区上原1-33-16 オーツカビル1F 月~土 18:00~翌0:30ラストオーダー  日曜 ¥800  03-3485-2907MUSICASA、古賀政男音楽博物館けやきホール、Hakuju HallInformationコンサートの余韻を美味しいお酒とともに味わえるホール近くの素敵なバーをご紹介しますBar CaesarionVol.7代々木上原オーナー・バーテンダーの田中利明さん166

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