eぶらあぼ 2016.12月号
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60上岡敏之(指揮) 新日本フィルハーモニー交響楽団新鮮な驚きで満たされるオール・ロシアン・プログラム文:オヤマダアツシ辰巳美納子(チェンバロ) ドイツ・バロック鍵盤音楽の潮流を辿る一夜文:寺西 肇横浜みなとみらいホール 特別演奏会12/4(日) 14:00 横浜みなとみらいホール第567回 ジェイド〈サントリーホール・シリーズ〉12/6(火)19:00 サントリーホール問 新日本フィル・チケットボックス03-5610-3815 http://www.njp.or.jp/12/22(木)19:00 東京オペラシティ リサイタルホール問 アレグロミュージック03-5216-7131 http://www.allegromusic.co.jp/ 新日本フィルの音楽監督就任1年目にして、すでにいくつかの名曲を刷新するような演奏を展開。「次はどんな音楽を聴かせてくれるのか」と思わせてくれる上岡敏之。 多層的に音が重なるスコアを抑制された美によって再現したような「ツァラトゥストラはかく語りき」、快速テンポで音楽を躍動させ、古典派交響曲としての一面に強い光を当てたような「運命」交響曲など、どのような名曲であっても「聴いたことがない新鮮さ」を提示してくれる。 12月はサントリーホールでの定期演奏会「ジェイド」と、横浜みなとみらいホールでの特別演奏会を同じプログラムで。ストラヴィンスキーの「プルチネッラ」(25分ほどの組曲版)は、ペルゴレージなど、主にイタリア・バロック音楽をストラヴィンスキー流にアレンジした新古典主義時代の傑作。チャイコフスキーの「くるみ割り人形」組曲は言わずと知れた名曲であり、エキゾティックな民族 気鋭のチェンバリストが、ドイツ・バロックの真髄へと迫る。辰巳美納子は本場オランダに学び、ソリストや主要アンサンブルの通奏低音奏者として活躍する名手。今回のリサイタルでは、2台の楽器を弾き分けて、音楽芸術そのものの根幹のひとつを成す、音律の宇宙を自在に往き来し、その神秘も詳らかにする。 武蔵野音大から東京芸大・同大学院に学び、第5回国際古楽コンクール〈山梨〉最高位などを受賞。アムステルダム・スヴェーリンク音楽院でも研鑽を積み、グスタフ・レオンハルトら巨匠の薫陶を受けた。帰国後はリサイタル活動の一方、バッハ・コレギウム・ジャパンなどでも活躍。バッハの録音2枚も発表し、高い評価を得ている。 ステージの核は、生誕400年を迎えたフローベルガー。ブクステフーデから、ゲオルク・ベーム、そしてバッハへと至るドイツ鍵盤音楽の潮流を辿音楽テイストと夢見心地な色彩感がエッセンスになっている作品。そしてソヴィエト音楽の金字塔であり、重厚さと軽妙さが交錯しながら聴き手を興奮に導いてくれるプロコフィエフの交響曲第5番。切れ味のよい音楽が期待できるストラヴィンスキー、サプライズが潜んでいる可能性も高いチャイコフスキー、引き締まった造形美がホールを満たする。一般的なフレミッシュ・チェンバロに加えて、フローベルガーの「トッカータ」や「カプリッチョ」では、ミーントーン(中全音律)で複数の調性の使用を可能にする、珍しい分割鍵盤を備えたイタリアン・チェンバロを弾く。 さらに、17世紀イタリアの自由なフーガ風の鍵盤楽曲を意味する「カプリッチョ」も、“隠れたテーマ”に。フローベルガーやベームだけでなく、締め括りに弾くバッハの「パルティータ第2番」の終曲も、実は「カプリッチョ」だ。フローベルガーが師フレスコバルディから受け継いだイタリア音楽の要素が、どうドイツ・バロックに採り込まれていったのか。聴衆は自身の耳で、確かめられる仕掛けだ。プロコフィエフ。曲を聴き慣れている方は、新鮮な驚きを体験できる可能性も大なのだ。上岡敏之 ©大窪道治Photo:Masashige Ogata

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