eぶらあぼ 2016.11月号
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68CD『Masterpiceces』ヤマハミュージックコミュニケーションズYCCS-10059 ¥2778+税※公演情報は下記ウェブサイトでご確認ください。http://www.sugawasax.com須川展也(サクソフォン)傑作ばかりを集めた新作をリリース!取材・文:渡辺謙太郎Interview 日本サックス界を長年にわたって牽引し続けている須川展也。彼は、同時代の気鋭の作曲家たちに新作を委嘱し、サックスのレパートリーと可能性を積極的に開拓してきた。10月5日にリリースした新譜『Masterpieces』は、そうした在り方のいわばマイルストーンと言える内容。すべてアルト・サックスによる演奏で、精彩を放つ3曲が収録されている。 冒頭を飾るのは、ジャズの巨匠チック・コリアに須川が委嘱して、2016年に完成した「アルト・サクソフォンとピアノのためのソナタ」。「ソナタ=二重奏」を意味するこの作品は、今秋から来春にかけて全国で演奏されるので、録音と実演の双方で楽しみたい。 「昔から敬愛していた方なので、まさか実現できるとは思いませんでした。今回は友人のジャズ・ピアニスト、島健さんが仲介してくださいました。『即興的なジャズ界の第一線で長年活躍してきたあなたの音楽を、世界中のクラシック・サックス奏者のためにアドリブなしの楽譜で残してください』とお願いしたのです。約13分半の作品ですが、随所に彼らしい緩急巧みなグルーヴ感が宿っています」 これに続くのが、ファジル・サイ「組曲」。14年10月に東京オペラシティでサイと須川によって世界初演されたが、今回のピアノは小柳美奈子が担当している。 「今年7月に東京都交響楽団との共演で協奏曲『バラード』を世界初演しましたし、サイさんとは近年素晴らしい関係を築いてきました。彼の作風はトルコ人ならではの独特の歌心が特長。この全6楽章の作品もそうですが、旋律は複雑な変拍子で編まれていて、まるで人間が喋っているようです。そんな西洋とも日本とも違う音楽性が聴き手を魅了するのでしょうね」 当盤の最後を締めくくるのが、吉松隆「サイバーバード協奏曲」のピアノ・リダクション版。1993~94年に書かれたオーケストラ版を、2015年に作曲家自ら編曲したものだ。 「僕はこの作品を3度録音していますが、ピアノ版の発想は皆無でした。今回の版は吉松さんより提案していただきました。サックス・パートは原曲とまったく同じなのですが、ピアノ・パートはオーケストラ版の大切な音が実にみごとに抽出されています。編曲というよりも新たな作曲に近いと思います」 来年6月に銀座ヤマハホールで行う公演では、これらの収録曲に委嘱新作も加えたプログラムを披露予定。その作曲家は「誰もが知っている方」で、「実に神秘的な小品」とのことなので、ぜひお聴き逃しなく!11/23(水・祝)15:00 横浜みなとみらいホール問 横浜みなとみらいホールチケットセンター045-682-2000 http://www.yaf.or.jp/mmh横浜みなとみらいホール オルガン・リサイタルシリーズ42シネマ × パイプオルガン『オペラ座の怪人』いにしえの名画とコンサート・オルガンの出会い文:宮本 明 『オペラ座の怪人』といえばアンドリュー・ロイド=ウェバー作曲のミュージカルのイメージが定着しているが、今回の『シネマ × パイプオルガン』で上映されるのは1925年のモノクロ映画。映像に音声トラックが同期した世界初の長編トーキー映画は27年だから、まだ無声映画だ。無声映画と聞くと活動弁士の名口調を思い浮かべる人も多いだろう。しかしあれは日本独自のシステムで、欧米ではもっぱら、挿入された文字のショットと、生演奏で奏でられる音楽によって上映されていた。当時、その音楽のために開発されたシアター・オルガンなるものも存在していた。基本的には通常のオルガンと変わらないが、効果音やリズムを奏でるようになっていたのは映画用ならでは。 横浜みなとみらいホールのオルガン「ルーシー」には、もちろん映画用の音栓はないが、それを巧みに表現してしまうのが、シアター・オルガンと即興演奏の名手ピーター・クラシンスキー。いにしえの名画と、現代屈指のコンサート・オルガンが時を超えて出会う。ピーター・クラシンスキー『オペラ座の怪人』

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