eぶらあぼ 2016.11月号
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本でも実現しようとしてきたが、うまくいかない。なぜならオペラハウスは歴史や民族のプライドと結びついているからこそ機能する面が多分にあるからだ。ここはひとつ、一度忘れたほうがいいかもしれないな。アジアではもっと自然発生的な、「物かげに転がった大福に盛大なカビが生えて超カラフルに変身する」ような、そういうアートの育み方の方が合っているのではないか。 逆にヨーロッパがそういうスタイルを試みて失敗した例もある。1980年代のベルリンの「タヘレス」は、潰れた百貨店に不良アーティストが住み込んで勝手にバーやステージまで作り、危険だが最新のアートの拠点となった。しかしその盛況を見た市当局が、よせばいいのに助成金を出した。金がないときは力を合わせていた不良どもが、ゼニを貰えるとなったら取り合いになって空中分解してしまったのである。その後何度かの再燃はあったものの、いまでは高校生がツアーで訪れるくらい健全でつまらぬ場に堕した。 アーティストが自発的にやっていることに、お上が訳知り顔で介入するとろくなことにならない。その点、日本は歌舞伎や浮世絵や工芸など世界に誇る文化の多くは町人文化によるものだし、舞踏も初めはアンダーグラウンドだった。目指すはカビのようにカラフルな世界を、そこここに築くことだ。それはかつて酒も薬も生み出してきたのだから。第25回 「アジアのパワーはカビにこそあり!     オペラハウスはとりあえず忘れろ」 台風がね。一挙に3つも。韓国のNDA(ニュー・ダンス・フォー・アジア)フェスに行く日に直撃し、成田で8時間も拘束された。 自らも現役の振付家であるユ・ホシクが立ち上げたNDA。自分の自動車を売った金で始めたこのフェスも今では順調に助成金を獲得して成長し、毎回新しい企画が盛りこまれている。今回はスペインの「MASDANZA」フェスとも連携。招聘者を選出するコンペティションにはオレも審査で関わった。また日本との共同企画「ダンス・キャンプ・プラットフォーム」では日韓のダンサーが日本と韓国で約20日間、文字通り寝食を共にするプロジェクトを実施した。 フェス最終日には、ソウルから車で2時間くらい離れた山のペンションで打ち上げ的な公演を行った。このフェスをサポートしているスポンサーの経営なので経費はかからない。しかもスポンサーみずから車の運転もしてくれ、手作り感満載である。 さらにプールサイドで見た、九州のダンスカンパニー「太めパフォーマンス」が素晴らしかったな。福岡でも見ているが、太めの体型の乗松薫と鉄田えみが謎のハイテンションで絶叫しながら踊る。肉を揺らし、水しぶきを上げて飛び込み、巨体が水面にぷかぷか浮いているだけで、なぜかダンスを感じてしまう。「太った人が意外に踊れて面白い、の向こう側」の新境地が見えた気がしたよ。 ダンスは別にスタジオでやる必要もないな…と思いながら帰国したところ、KAATからの依頼でシンポジウムの司会を頼まれた。そこでスピーカーの矢内原美邦がアジア各国を回るなかで、ダンサーが空いている建物を勝手に使って公演をしている現状を報告していて、オレはひらめいたのだった。 日本のダンスはオペラハウスや公的劇場を中心としたヨーロッパ式のサポートシステムを、なんとか日Prifileのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。うまい酒と良いダンスのため世界を巡る。http://www.nori54.com乗越たかお……誰もオレを知らぬ206

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