eぶらあぼ 2016.10月号
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50©東京オペラシティ 撮影:大窪道治サントリー芸術財団コンサート 作曲家の個展Ⅱ 西村 朗 × 野平一郎10/28(金)19:00 サントリーホール問 東京コンサーツ03-3200-9755 http://www.tokyo-concerts.co.jp西村 朗(作曲)野平一郎さんとの共作・委嘱はスリリングな体験ですね取材・文:伊藤制子Interview 1981年から毎年、優れた日本人作曲家の紹介を行ってきたサントリー芸術財団主催の『作曲家の個展』。今年からリニューアルし、新シリーズがスタートする。『作曲家の個展Ⅱ』と題し、毎回2人の作曲家が演奏会の構成・企画を担当するスタイルを採用するという。記念すべき初回は、西村朗と野平一郎が登場する。 「野平さんは、同じ東京芸大出身で1年先輩ですが、作風も作曲家としての活動の軌跡もずいぶん異なります。せっかくタイプの違う私たちが組むのだから、今までに無いような挑戦的な企画にしようということで、お互いに委嘱し合った新作2曲、さらに共作を1曲発表することにしました。今後も作曲家二人の組み合わせの形が続く予定ですが、どんなペアになるかで、演奏会の内容は毎回かなり変わってくると思います」 音楽史上、ほとんど類をみないであろう今回の共作は、ピアノ協奏曲「クロッシングA・I」。 「第1楽章は、ソロの部分が私、オーケストラの部分が野平さん、第3楽章はそれが逆になります。第2楽章は、5~6分程度のソロのみの曲です。お互いに6つの断片を作曲し、それをソリスト(野平さん)が任意に並べて構成します。各自が個性をはっきり打ち出した音楽を書き、それがクロスするというのがタイトルの由来です。アルファベットは、それぞれの名前、朗(AKIRA)と一郎(ICHIRO)の頭文字からとりました」 両者から信頼を寄せられている杉山洋一が東京都交響楽団を指揮し、ソロは野平が担当する。 「野平さんには自作を何度も演奏していただきましたが、作曲家としての高い知性と教養を備えたその演奏表現は、いつも作品に新鮮な命と飛躍を与えてくださいました。作曲者の想像以上に、作品を成長させ、輝かせてくれると言ってもいいですね」 野平が委嘱した西村作品は「液状管弦楽のための協奏曲」。 「これまでの私のヘテロフォニー語法が基調になった曲で、2管と3管の間くらいの編成です。金属打楽器群が水質の羊水世界のような背景を作ります。液状というタイトルは管弦楽を液状の原初の海的世界や羊水世界としてイメージしているということで、そこに出現する音響や旋律群は液中に生まれる生物体のようなものというわけです」 なお、西村から野平への委嘱作は「時の歪み」だ。 今回のユニークな企画は西村の創作にとっても、ひとつの節目になったという。 「これまでにない斬新な体験ができましたね。野平さんとの共作の譜面を通じて自分の創作や音楽観が鏡のように写ってきたような思いがしました。まさに自身を映す鏡でした。新しい試みなので私自身も非常にスリリングでしたが、みなさんにもぜひこうした実験に対する批評精神をもって聴いていただきたいと思います」10/25(火)19:00 サントリーホール問 アスペン03-5467-0081※全国公演の詳細は右記ウェブサイトでご確認ください。 http://www.aspen.jp神尾真由子(ヴァイオリン) & ミロスラフ・クルティシェフ(ピアノ)更なる深化を遂げたデュオで聴くブラームス文:寺西 肇©大窪道治/撮影協力:ヤマハホール 「歯磨きするのと同じように、弾いていたい」。2007年に第13回チャイコフスキー国際コンクールを制した、ヴァイオリンの神尾真由子。楽器との付き合い方を尋ねたら、こんな答えが返って来た。そして、「何時間も集中するよりも、一日中、何となく楽器を触っている方がいい。常に触っている感覚が身に付くと、ステージに臨んでも、頭が真っ白にならずに、弓と指が勝手に走ってくれるようになるんです。練習あっての、オート・パイロット(自動操縦)ですね」と、悪戯っぽく笑った。コンクール優勝を機に一躍スターダムを駆け上がった後も、周囲の騒がしさにも自分を見失うことなく、ひたむきな研鑽を重ねてきた神尾。その音楽性と技巧は、着実に更なる深化を遂げている。神尾と同じ年にチャイコフスキー・コンクールのピアノ部門で最高位となり、互いに気心を知り尽くした名手ミロスラフ・クルティシェフの共演を得ての、デュオ・リサイタル。ブラームスのヴァイオリン・ソナタ全3曲に、じっくりと対峙する。

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