eぶらあぼ 2016.9月号
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30東京二期会オペラ劇場 ライプツィヒ歌劇場提携公演 ワーグナー:楽劇《トリスタンとイゾルデ》ヘスス・ロペス=コボス(指揮)ヴィリー・デッカー(演出)読売日本交響楽団(管弦楽)9/10(土)、9/11(日)、9/17(土)、9/18(日)各日14:00東京文化会館問 チケットスペース03-3234-9999/二期会チケットセンター03-3796-1831http://www.nikikai.net ブライアン・レジスター。飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍する、いまもっとも注目されているヘルデン・テノールの一人である。この9月、東京二期会《トリスタンとイゾルデ》で至難極まる表題役に挑戦する。そんな彼の歌手になるきっかけも破天荒なものだった。 「実は、まさにワーグナーのオペラに匹敵するほどのドラマがあります。私は子供の頃からピアノを学び、大学でもピアノを専攻しました。大学入学後、副科の声楽の試験を受けると、私の歌を聴いた先生は声楽への転科を勧めたのです」 やがて声楽の進歩が、ピアノのそれを上回るようになると、マンハッタン音楽大学の大学院では声楽を専攻。匿名の寄付者による奨学金が給付されるようになる。 「卒業前に学長から、奨学金の出資者に礼状を書くよう言われました。封筒に書かれた、ビルギット・ニルソンの名前を見たときの私の驚きは、容易にご想像いただけるでしょう! ニルソンは最初の試験を聴いており、学費を支援したいと申し出てくれたのでした」 レジスターが歌手になったのは、自らの意志とはかかわりなく、周りがお膳立てをしてくれた結果であり、それを受け容れる覚悟を固めていく。日本で披露するトリスタンも、みずからの運命を従容と受け容れる強さを持つ役柄であり、それを歌いきることには負担も大きい。 「ワーグナー自身が、登場人物そのものの成長と呼応するかのように総譜に書きこんだ音楽記号や強弱を尊重すれば、歌唱のペースは自然と決まっていきます。ようやく第3幕で、内向的な沈思と爆発的なほとばしりとの間で、あらゆる感情を色とりどりに歌えるのです。ここに至って、歌手は自身を完全に解き放つことができ、ワーグナーの音楽の流れとも一致します。本当に難しいのは、自分自身をコントロールすることなのです」 第3幕最後には、イゾルデの声を聞いたときにトリスタンが発する「いま聴いたのは光か?」という印象的な言葉がある。レジスターの解釈はこうした哲学的な台詞にも揺るがない。 「トリスタンという役に共感できるのは、自身の属する社会が求める制約の中で、自身の誇りを守ろうとしている点です。トリスタンは常に、誇りある行動をとろうとします。死を超えるほど強いものは、ただひとつ、愛なのです。その台詞は、トリスタンによるイゾルデの描写です。トリスタンとイゾルデはともに、自分たちが愛を表現することができる状況を語るときに、光と暗闇の比喩を使います。ふたりにとって暗闇は“安全な場所”であり、光はふたりを引き離すものでした。昼の光の中でイゾルデがトリスタンを訪れ、世界に向けてその愛を宣言するのはようやく最後になってから。トリスタンの最後の台詞は『光は消えた――彼女(イゾルデ)のもとへ!』です」 東京二期会でのプロダクションに寄せる意気込みは大きい。初めて訪れる東京で、その深く豊かな文化に触れ、「才能溢れる共演者の方々と、Mr.ワーグナーが誇りに思ってくれるようなものを作り上げる」ことに期待を寄せるレジスター。その歌声に接するのが待ち遠しい。interview ブライアン・レジスターBryan Register/テノール©Dario Acosta世界が注目するワーグナー・テノールがついに来日!取材・文:広瀬大介9/10&9/18ブライアン・レジスター清水那由太横山恵子大沼 徹今尾 滋加納悦子出演トリスタンマルケ王イゾルデクルヴェナールメロートブランゲーネ9/11&9/17福井 敬小鉄和広池田香織友清 崇村上公太山下牧子 他::::::

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