eぶらあぼ 2016.9月号
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文:渡辺謙太郎 写真:中村風詩人すべてのお客様と「同志」でありたい クラシック音楽に精通したオーナーが、それぞれ個性が強く、かつ洗練された店を構える新宿三丁目。今回紹介するのは、楽聖ベートーヴェンをコンセプトに作られたバー。その名も、交響曲第9番の最終楽章に出てくるシラーの詩「歓喜に寄せて」から名前を戴いた「Bar Brüder(バー・ブリューダー)」だ。オーナーの菅野仁利さんは、理系の大学院で学ぶ傍ら、新宿の「rit bar(リットバー)」などでバーテンダーの経験を積み、2009年に新宿三丁目でこの店を開いた。 「店名はドイツ語で『同志』。すべてのお客様と、寛ぎながらも、節度を持ってお付き合いできる同志でありたいという願いを込めました。また、新宿三丁目は、私がここを独立の地を選ぶきっかけになった尊敬する先輩や同年代のバーテンダーも多く、街全体が“同志”のようです」 菅野さんの“ベートーヴェン愛”は、店内の随所に顕在。BGMの大半がベートーヴェンなのはもちろん、バックバーにはクリムトの名画「ベートーヴェン・フリーズ」が掲げられ、その横には彼の彫像やピアノ・ソナタの楽譜なども並ぶ。そしてカウンターの裏には、ベートーヴェンの伝記映画『不滅の恋人』の名シーンを切り取った美しいステンドグラスまであしらわれている。 「ベートーヴェンを本格的に聴き始めた頃の私は、ちょうどプライベートでトラブルを抱えていた時期。彼の名言『苦悩を突き抜けて歓喜に至れ』と、それを体現した作風に魂を救われ、深く傾倒するようになりました」 極上の豆を60粒数えて、トルコ式のミルで挽き、ドリップで丁寧に淹れた珈琲を毎朝飲んでいたというベートーヴェン。この点、学生時代に流体力学を学んだ菅野さんが作るカクテルも、実に几帳面で科学的だ。 今回作ってくれたのは、ジン・トニックと、マンハッタン。前者は「ゴードン」のジンとトニックウォーターがベース。そこにソーダとメキシコ産のライムを加え、爽やかな香りと喉ごしを際立たせる。一方、「カクテルの女王」とも呼ばれる後者。女王にふさわしい、ふくよかな香りと味わいを求める彼は、「カナディアン・クラブ」の12年と、長期熟成タイプのベルモットを使用。さらに、そのこだわりはステアの方法にも及んでいる。 「氷を、素材を繋ぐ接着剤のようにイメージしながら、それぞれの液体をゆっくりと寄り添うようになじませていく。その後、素材が混ざり合った芳香を感じ始めたら、ステアの速度を徐々に上げていくんです。音楽に例えるなら、ベートーヴェンの『運命』の第3楽章から第4楽章に至る流れと言ったところでしょうか。目標は、敬愛するカルロス・クライバーが指揮する演奏のように圧倒的な1杯ですね(笑)」Bar Brüder(バー・ブリューダー) 東京都新宿区新宿3-7-7 十字屋ビル 3F 月~土 17:00~翌3:00 日曜日  ¥1000  03-6457-4949 新国立劇場、東京オペラシティInformationコンサートの余韻を美味しいお酒とともに味わえるホール近くの素敵なバーをご紹介しますBar BrüderVol.6新宿オーナー・バーテンダーの菅野仁利さん184

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