eぶらあぼ 2016.9月号
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174CDCDCDCDJ.S.バッハ&シューマン:ヴァイオリン・ソナタ集/崔チェ 文ムンス洙 & 上岡敏之J.S.バッハ:ブランデンブルク協奏曲(ピアノ編曲版)/カール=アンドレアス・コリーメシアン:鳥のカタログ第1・2・3・5巻/宮崎明はるか香ブリュートナーで弾くドビュッシー/谿たに 博子J.S.バッハ:ヴァイオリン・ソナタ第3番 BWV1016シューマン:ヴァイオリン・ソナタ第2番崔 文洙(ヴァイオリン)上岡敏之(ピアノ)J.S.バッハ:ブランデンブルク協奏曲第1番~第6番(ピアノ編曲版)カール=アンドレアス・コリー(ピアノ)メシアン:「鳥のカタログ」第5巻第8番ヒメコウテンシ・第9番ヨーロッパウグイス、第3巻第5番モリフクロウ・第6番モリヒバリ、第2巻第4番カオグロヒタキ、第1巻第1番キバシガラス・第2番キガシラコウライウグイス・第3番イソヒヨドリ宮崎明香(ピアノ)ドビュッシー:ベルガマスク組曲、前奏曲集第2集、エレジー谿 博子(ピアノ)オクタヴィア・レコードOVCL-00590 ¥3000+税マイスター・ミュージックMM-3083-84(2枚組) ¥3900+税録音研究室(レック・ラボ)NIKU-9003 ¥2800+税ディスク クラシカ ジャパンDCJA-21035 ¥2500+税崔文洙は新日本フィル(関西人にとっては大阪フィル)のコンサートマスターである。オーケストラの中から聴こえる彼のソロの美しい響きに心奪われること一再でない。その崔のソロアルバムは期待にたがわぬ出来栄えだ。バッハの冒頭から清潔なイントネーションで、実に美しい。上岡敏之のピアノは指揮者らしく構造に目配りが効いて、フガートの声部の弾き分けもとても巧い。シューマンではさりげないようでロマンティシズムの香りもあり、難渋になりかねないところも、細かい変化で面白く聴かせてくれる。流麗で緊張感に満ちたフィナーレまで間然する所なく魅了される。(横原千史)ピアノ編曲によるブランデンブルク全曲とは、極めてユニークな発想。第2番のトランペットなど、原曲の多彩な楽器の音色を模倣したかと思えば、第3番の終楽章や第4番の第1楽章のように、まるでオリジナルの鍵盤作品がごとく響く場面もあるなど、その表現法は変幻自在だ。また、第6番を除き、編曲もコリー自身によるが、ピアノ譜を書き起こすのではなく、原曲のスコアを前に、半ば即興的に録音に臨んだのだという。当然ながら、全ての声部を掬い取るのは不可能なのだが、存在しない音も“暗示”する巧みな手法。どこか、バッハの弦楽器のための無伴奏作品を想起させる。(寺西 肇)いろいろなさえずりを集めた「鳥のカタログ」。筆者はこれを、メシアンの耳と頭脳を通した鳥、そして作曲技法に関する文字通りの図鑑のように聴いてきた。しかしこの録音では、森のしじま、霧にかすむ厚ぼったい大気、照り付ける太陽、深まっていく夕暮れなど、周囲の状況までが生き生きと、詩情豊かに描かれているではないか。パリで10年間研鑽を積んだ宮崎明香は、厚手の和音や複雑なテクスチュアも透明感のあるタッチでまとめている。自身による楽曲解説もまた、各曲が舞台としている地方、風土、時間の経過などを個人的なイメージも織り込みつつ紹介し、聴き手をリードしてくれる。 (江藤光紀)柔らかなピアノの音色、空気を存分に含んだ豊潤な響き。そんなピアノ音楽を愛する人にぜひ聴いてほしい一枚だ。谿博子が演奏するのは、ドビュッシーが好んだブリュートナー社製のピアノ、それも作曲家が生きた時代、1905年製の同社創業50周年モデルだ。巨匠イェルク・デームスが所蔵していたというその楽器で、谿がベルガマスク組曲と前奏曲集第2集を奏でる。極めて内省的な「枯葉」、ハーモニーと沈黙との溶け合いが見事な「月の光が降り注ぐテラス」、そして最晩年の「エレジー」などは、いずれもこの録音でしか味わうことのできない深淵な美を湛えている。(飯田有抄)

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