eぶらあぼ 2016.8月号
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25新たな音楽監督とともに迎える新時代取材・文:オヤマダアツシ 写真:藤本史昭 2014年12月、新日本フィルハーモニー交響楽団は第4代音楽監督に上岡敏之を迎えると発表し、注目を集めた。それから1年9ヵ月後となる今年の9月、いよいよ新日本フィルの新しい時代がスタートする。常に音楽への斬新なアプローチが話題となる上岡だが、これからは客演指揮者ではなく音楽監督という立場となるだけに、オーケストラの発展を視野に加えた活動が注目されるはず。就任を前に定期演奏会のシリーズ名称を変更して新鮮な方向性を提示するなど、早くも“上岡カラー”を打ち出した(TOPAZ、JADE、RUBYの3シリーズ)。自身では2016/17シーズンの定期演奏会に8プログラム(計13回)、指揮台へ登場する予定だ。 「新日本フィルは温かく明るい音色をもち、いろいろなタイプの音楽を演奏できるオーケストラだと思います。音楽監督としてはそうした特徴を生かしつつ、楽員一人ひとりの能力を自分がきちんと把握し、それを最大限に引き出して整理しなくてはいけません。そのためには自分も楽員の皆さんもオープンになって、何を作り出せるのだろうかという共通した意識をもち、自分たちならではの音を生み出すという目的を共有することが大切なのです。新日本フィルには室内楽定期がありますけれど、楽員のモチベーションを保ち、オーケストラという集団にあって自分には役割があるということを意識する上でも重要だと思います」 自身で指揮をする演奏会では、いろいろな試みをしながらお客に楽しんでいただきたいという。 「音楽監督としてはさらに広い視野で新日本フィルを発展させていかなくてはなりません。ですから自分が出演するコンサートだけではなく、日本に帰ってきたときは客演指揮者とのコンサートも積極的に聴いてみようと思っています」 日本のオーケストラでこうしたポストに就任するのは初めてだが、ドイツではヴッパータール市立歌劇場の音楽総監督などさまざまなポストを歴任してきた。そこで得た音楽監督像とは、どういうものだろうか。 「音楽面での充実はたしかに大切なことですが、音楽はただ楽器が鳴ってできるのではなく、人間が作り出すのです。ですから、楽員が音楽に打ち込めるような経営状態についても考える必要があります。自分はポストだけの音楽監督になるつもりはありませんし、いい音楽を生み出す環境作りも大切な役割だと考えています。そうした意味では、音楽監督の就任前にアーティスティック・アドヴァイザーという肩書きで、1年間の準備期間をいただけたことは幸運でした。指揮者やオーケストラは1回1回の演奏会で判断されてしまいがちですけれど、ぜひ成長の過程を見守っていただきたいと思います。劇的には変化しませんし、演奏会によっては調子がいいときも悪いときもあるでしょう。それも含めて変化の楽しさを、お客様も楽員もいっしょになって楽しんで欲しいのです。ドイツではオーケストラが街に溶け込んでいて、いい状態のときも悪い状態のときもすぐに情報が広まるので、悪いときでも『一体どうなっているのだ』と演奏会に来てくれる人たちがいます。僕はなんでも簡単に受け入れてしまう人より、ちょっと頑固な人に認められたいという願望があり、どういった意見であれ正直に心から言ってくれる聴き手が増えると励みになりますね」 現時点での任期は5年だが、少なくともその間は新日本フィルが変化していく過程を見られる(聴ける)のだろう。 「2017/18シーズン以降のプログラムについても、すでにいろいろ考えています。すべては積み重ねですし、状況によってさらに新しいことができるかもしれません。野球やサッカーと同じで、監督はプログラム作りから現場の采配まで責任をもち、その結果次第でいろいろな意見が寄せられるでしょう。その反応も大事な情報ですから、まずは最初のシーズンを見守っていただきたいと思います」 新時代の幕明けは9月9日のサントリーホールで、「ツァラトゥストラはかく語りき」の壮大なファンファーレからだ。Prole東京芸術大学で指揮、作曲、ピアノ、ヴァイオリンを、ハンブルク音楽大学で指揮を学ぶ。エッセンの市立アールト劇場第一カペルマイスター、ヘッセン州立歌劇場音楽総監督、ザールランド州立歌劇場音楽総監督、ヴッパータール市立歌劇場インテンダント兼音楽総監督(~2015/16)等を歴任。2016/17シーズンよりコペンハーゲン・フィル首席指揮者。ザールブリュッケン音楽大学指揮科正教授。2007年第15回渡邉曉雄音楽基金 音楽賞・特別賞、14年第13回齋藤秀雄メモリアル基金賞を受賞。16年9月に新日本フィルハーモニー交響楽団の第4代音楽監督に就任する。

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