eぶらあぼ 2016.5月号
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48モーリス・ブルグ&若尾圭介オーボエ ジョイントリサイタル6/1(水)19:00 紀尾井ホール問 紀尾井ホールチケットセンター  03-3237-0061http://www.kioi-hall.or.jp若尾圭介(オーボエ)巨匠との邂逅が生んだ、稀有のリサイタル取材・文:柴田克彦Interview ボストン交響楽団の準首席及びボストン・ポップスの首席奏者を務めるオーボエの名手・若尾圭介が、同楽器の至宝ともいうべきフランスの巨匠モーリス・ブルグとジョイント・リサイタルを行う。「高校2年のときアメリカに渡り、ボストン響在籍は27年、オーボエ人生は40年になる(2015年時点)」という若尾は、2013年にパリでブルグと邂逅し意気投合。2度ボストンで共演し昨年3月にはCD録音を行った。 「当時私は、オーボエの演奏で最も重要な呼吸法を徹底的に研究し、人間と会話するように吹けるときがいつ来るのだろうか? と考えていました。するとブルグさんも同じことを考えていたと言うのです。そこに魅せられ、13回も会って話し合いました。それに彼は人間性が素晴らしく、真の“音楽家”でもあります」 オーボエ2本のリサイタルは極めて珍しく、プログラムも実に興味深い。 「私とブルグさんが各々、オーボエとヴィオラ、ピアノの曲(レフラー、シューマン)、オーボエとフルート、クラリネット、ピアノの曲(サン=サーンス、ミヨー)を演奏し、2本のオーボエとピアノの曲(上林裕子の2作)でジョイントします」 このサウンド的な妙味満載の公演を、高木綾子(フルート)、山本正治(クラリネット)、須田祥子(ヴィオラ)、広瀬悦子(ピアノ)という実力派共演陣が盛り上げる。 上林裕子の2作品のうち『森を渡る声』は、この2人のオーボエ奏者の共演のために書き下ろされた新曲で、昨年ボストンで初演された。 「ブルグさんとコンサート・録音を行うにあたって、2人で一緒に演奏できる曲を友人である上林裕子さんに書いてもらうことにしました。彼女の作品は美しい旋律を持ち、聴く人に直接訴えかける魅力があります。もう一曲の『街の灯』は元々フルート2本の作品でしたが、今回の録音のために彼女自身にオーボエ2本用の編曲版を作ってもらいました」 他の曲もそれぞれに魅力的だ。 「レフラーの『2つのラプソディ』もフランス的で、ヴィオラとピアノが結構難しい。演奏時間22分程度の曲ですが、やはり旋律が綺麗で、演奏者全員が活躍しますから、お客さんも飽きないと思います。サン=サーンスの『デンマークとロシア民謡によるカプリス』は彼ならではの楽しい音楽で、ミヨーの『ソナタ』は反対にシリアス。後者の演奏はブルグさんが強く希望しました」 会場は「800席ありながらこれほど演奏者の個性がわかるホールはない」と称賛する紀尾井ホール。併せてCDもリリースされる予定なので、あらゆる意味で楽しみだ。 オーボエの魅力は「1音で惹かれるところ」と語る彼。「年間200回公演がある」ボストン響で演奏しながら、コンサートの企画や指揮も行い、ボストン・レッドソックスの試合にも熱心に通う。かくも精力的な音楽家の企画&演奏に、ぜひ触れてみたい。6/4(土)14:00 第一生命ホール問 トリトンアーツ・チケットデスク03-3532-5702 http://www.triton-arts.net室内楽の魅力 ブラームス 第4回~トゥーン湖畔の夏 トリオ・ヴァンダラーブラームスの“孤独の心境”を映す文:笹田和人 フランスの実力派ピアノ三重奏団「トリオ・ヴァンダラー」が、“休暇を過ごすブラームスのもと”へと聴衆を誘う。第一生命ホールの『室内楽の魅力 ブラームス』シリーズ第4弾は、1886年の夏、大作曲家がスイス中央部の湖畔の街トゥーンに滞在中に生み出された佳品を特集。ピアノ三重奏曲第3番とチェロ・ソナタ第2番に加えて、54年に作曲されたピアノ三重奏曲第1番も披露される。「トリオ・ヴァンダラー」は、ジャン=マルク・フィリップス=ヴァルジャベディアン(ヴァイオリン)とラファエル・ピドゥ(チェロ)、ヴァンサン・コック(ピアノ)によって結成され、1988年にミュンヘン国際コンクールを制した名人集団。シューベルトの「さすらい人」に由来するグループ名に、ドイツ・ロマン派への深い愛情が滲む。今回のステージについて、「ブラームスは、この湖畔で“孤独”という、彼の音楽の主題とも言うべきものと向き合っていた」とコック。寂漠の思いが昇華した美しい旋律の数々に、身を委ねたい。

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