eぶらあぼ 2016.5月号
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24一柳 慧Toshi Ichiyanagi/作曲、ピアノ初めてピアノ協奏曲を自作初演します取材・文:伊藤制子 写真:藤本史昭 東京オペラシティで毎年開催される現代音楽の祭典『コンポージアム』。2016年度武満徹作曲賞の審査員は一柳慧で、今年は作曲賞本選演奏会と一柳の個展コンサートが行われる。 25日は「一柳慧の音楽」と題して、2001年作曲の室内オーケストラのための「ビトゥイーン・スペース・アンド・タイム」、世界初演のピアノ協奏曲第6番(ピアノは一柳自身が担当)、そして交響曲「ベルリン連詩」というオーケストラ作品3曲がプログラミングされた。 「この協奏曲は既作の5曲の協奏曲とは異なり、ピアノパートにグラフィックな楽譜を使った作品です。全体は6つのセクションに分かれていて、出だしは決まっているのですが、その後は演奏者の裁量に任されるところも多い曲です。ピアノには内部奏法も含まれており、かなり破天荒な音楽になりそうです。既作の5曲のピアノ協奏曲には全てタイトルが付いているので、今回も最終的にはタイトル付きになる予定です。ピアノ協奏曲の自作初演は今回が初めてです。ピアノを弾くにはしっかり技術を保っておく必要がありますので、毎晩1時間から1時間半くらいは練習していますね」 ピアニスト、作曲家としてのまさに一柳の今を知ることのできる絶好の機会になるだろう。 また一柳の代表作で、1988年作曲の「ベルリン連詩」は17年ぶりの再演。日本古来の歌の形態である連歌などをベースに、詩人の大岡信が現代の俳諧としてよみがえらせた分野「連詩」を音楽に援用した作品で、連歌が前の人の詠んだ歌を引き継いでいくのと同様、音色や種類の異なる楽器が種々の工夫を凝らして引き継がれていく。歌詞は大岡信、川崎洋による日本語の詩とドイツの詩人カリン・キヴス、グントラム・フェスパーのドイツ語の詩が使われ、日独の歌詞が連歌風に交互に歌われていく。 「今回はソプラノの天羽明惠さん、バリトンの松平敬さんという日本を代表する歌手のお二人に出演していただきますが、初演ではテノール歌手が担当した声部は音域が広いので近年ではバリトンにお願いすることが多いです」 29日の武満徹作曲賞本選演奏会は、世界33ヵ国から寄せられた97曲の応募作から選ばれた4作の演奏審査となる。審査員が毎年交代し、たったひとりの作曲家が譜面審査から本選の演奏審査までを担当するので、各審査員の価値観が反映された受賞作が選出されてきた。 「全体のレベルはとても高かったので、まず譜面審査がとても大変でした。ところで、先日ブーレーズが亡くなりましたが、私が個人的に親交のあったシュトックハウゼン、そしてブーレーズら1950年代の前衛の手法は、今や現代音楽において基礎となる古典といえます。今回の応募作は、総じてこういった既に歴史となった手法を非常によく勉強し手中に収めているという印象でした。微分音や特殊奏法、さらに楽器の配置に個性のある作品まで、きわめて多彩なオーケストレーションによる真摯な作品が多く寄せられたと思います」 ハイレベルなだけに本選に残す作品を選ぶのは苦労したという。 「ただ欲を言えば、既に綺麗にまとまりすぎた感じだったのが気になりました。応募者たちはまだ若いのですから、多少未熟なところがあっても、もう少し思い切ったことをしてもいいのではないでしょうか」 創作において一柳は、科学技術と同様、つねに前進していくことが必要だと考えているという。 「昨今は科学の分野はめざましい進歩を遂げていますが、作曲もそれと同様、つねに新しいものを希求することが大切なのです。今回の本選で演奏される4作はこれまでの技法やスタイルに安住せず、斬新な世界を切り開いている作品ばかりですので、聴衆のみなさんはこうした新鮮な音楽との出会いに期待していただきたいと思います」 なおコンポージアム関連公演として、5月20日には『一柳慧〜ミュージック・ホリスティック』と題した室内楽特集コンサートが開催される。

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