eぶらあぼ 2016.5月号
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文:渡辺謙太郎 写真:中村風詩人新宿三丁目に出現した『ゴッドファーザー』の世界 カトリックの洗礼における「名づけ親」を意味する「ゴッドファーザー」。新宿三丁目にはそのフランス語をバーの名前に冠した名店がある。本多啓彰さんがオーナーを務める「Bar le Parrain(バー・ル・パラン)」だ。2001年に新宿御苑近くで開業し、04年に現在の地に移転。これをきっかけに、彼を慕うバーテンダーが次々に界隈で独立したことで、今では日本有数のバーの街となった。その意味で本多さんは、バー業界における「新宿三丁目のパイオニア」と言えるだろう。店名は、20代の頃に旅したフランスのパリで思いついたという。 「古い映画ポスター店で、『ゴッドファーザー』のポスターを見つけたんです。そこで『ル・パラン』の名前を初めて知り、いつか独立する時には店名にしようと心に決めました」 木製の重厚な扉の先に広がるのは、店名そのままの世界。「ゴッドファーザー」の主人公が葉巻を燻らせていそうな空間だ。蝋燭の炎が静かに揺らめくカウンターは無垢のブビンガで、バックバーにはアンティークの食器棚と薬品棚が配置されている。 「お客様に日常とは異なる空間でゆったりとくつろいでもらいたくて。イギリスのヴィクトリア調の内装をお願いしました」 客層は葉巻やパイプを燻らせる男性が中心。音楽、映画、絵画、ファッションといった博覧強記な会話が毎夜繰り広げられている。 「私が修行させていただいた青山の『Bar Radio(バー・ラジオ)』では、『バーテンダーはお酒の知識だけではいけない。最も大切なのは接客だ』と教わりました。たとえ店内にボトルが1本しかなくても、お客様に楽しんでいただけるような店作りが目標です」 本多さんはクラシック音楽の知識も豊富で、とりわけピアニストのグレン・グールドを敬愛。真空管アンプを使ったオーディオシステムから流れる彼のピアノや、バロックの弦楽作品は、紫煙が燻(くゆ)る空間によく映える。また、初台からのアクセスがよいため、公演帰りの客が多いのも特長だ。そうした中、本多さんはいつも微笑を湛えながら、飲み手の心に寄り添った極上の1杯を提供してくれる。カクテルの出方を見ていると、「マティーニ」や「サイドカー」といったスタンダードが多いが、今回作ってくれたのは、その名も「ゴッドファーザー」。ウイスキー・ベースの濃厚なカクテルだが、アマレット・リキュールのアーモンド風味が絶妙な甘さと華やぎを醸し出す。まさにこの店を体現したような1杯だった。Bar le Parrain(バー・ル・パラン) 東京都新宿区新宿3-6-13石井ビル 3F 月~土 18:00~27:00 日・祝祭日  ¥1000  03-3358-8432 新国立劇場、東京オペラシティInformationコンサートの余韻を美味しいお酒とともに味わえるホール近くの素敵なバーをご紹介しますBar le ParrainVol.4新宿オーナーの本多啓彰さんゴッドファーザー179

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