eぶらあぼ 2016.4月号
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58イヴリー・ギトリスの世界 協奏曲 4/26(火)19:00 東京芸術劇場 コンサートホール ソロ 5/3(火・祝)14:00 紀尾井ホール問 テンポプリモ03-5810-7772 http://www.tempoprimo.co.jpイヴリー・ギトリス(ヴァイオリン)演奏とは人間性、そして愛のようなものだと思います構成・文:林 昌英 取材協力:テンポプリモInterview 1922年イスラエル生まれのヴァイオリニスト、イヴリー・ギトリスが、今年の春にも来日公演を行う。現在なんと93歳。そのバイタリティには驚かされるばかりだが、当人は「なんでこんなに元気なのかは自分でもわからない。神様に聞いてほしい。それと、年齢の話はしないで!」と意に介さず、ますます意気盛ん。来日も楽しみという以上のものを感じているという。 「毎年のように日本に行くたびに感じることと言えば…『家』。いつも『家』に帰ってきたなあと感じるんです」 20世紀の巨匠の時代から活躍を続けてきたギトリスの偉大さはもはや説明不要だろう。今年は東京交響楽団との共演で協奏曲(指揮:ニコライ・ジャジューラ)を、そしてベートーヴェンのスプリング・ソナタや小品集で構成されるリサイタル(ピアノ:ヴァハン・マルディロシアン)を聴かせてくれる。誰も真似のできない唯一無二の“ギトリス節”が堪能できるだろう。その何物にもとらわれず解放された演奏の秘密は何なのか。 「解放されているというより、そのときそこに“私”という個人がいるというか…自分自身の中で“私”となることができるのです。あと、私は技術的なことはもうあまり気にしません。大事なのは、ステージに向かう前に何を考えるかです。ステージでの調和はまた別のもので、瞬間に感じ取るものだからです。音楽とは良いこと、悪いこと、難しいことや簡単なことが共存しています。私達は小さな一部分に過ぎず、新しいフレーズを演奏するときには機械的にならないよう、特別な意識はしていません」 さらに、若い演奏家についてのコメントの中で、ギトリスの考える演奏の本質が伝えられた。 「現在とても才能のある若者がたくさんいます。ただ、かつてと比べて若い奏者に対して求められるものが変質しており、残念ながら、機械のような完璧さを要求されています。私はそれは間違っていると言いたい。演奏とは人間性、それはフィーリングとも言えるし、愛のようなものだと思います。愛は幸せをもたらすだけではないのと同様、音楽は人を幸せにさせるだけではなく、深い気持ちや寂しい気持ちにさせて、時には涙を流させることさえあります。それがいいのです。それに、愛の物語というのは時にはつらかったりするけど、エンディングまで行って振り返ってみれば、笑って終われることもある。要は、演奏の本質とはそういうことなんです」 最後に、日本のファンに向けて、ギトリスらしい茶目っ気と愛情に満ちたメッセージをくれた。「『(日本語で)こんにちは、日本の皆さん』。全ての日本人のファンと友人たちへ、私は皆さんをとても愛しています。私のことを愛して欲しいとは頼まないけれど(笑)、私は、皆さんと共にいますから」5/11(水)19:00 東京文化会館(小)問 プロアルテムジケ03-3943-6677 http://www.proarte.co.jp伊藤寛隆(クラリネット) マックス・レーガー クラリネット作品 全曲演奏会レーガー独特の美学と滋味文:寺西 肇©山口 敦 ドイツ近代の作曲家マックス・レーガーと言えば、巨大な管弦楽曲やオルガン曲のイメージが強いが、室内楽にも魅力的な作品を残している。中でも、ブラームスのソナタにインスピレーションを得て手掛けたと言う、クラリネットのための作品は、そのブラームスの雰囲気もそこはかと感じさせつつ、レーガー独特の美学と滋味に彩られ、高く評価する向きは多い。その全容と魅力を明らかにするのが、日本フィルハーモニー交響楽団の首席クラリネット奏者を務め、ソリストとしても数々の檜舞台を経験してきた名手・伊藤寛隆のリサイタル。公演当日は、作曲者の没後100年の命日にあたる。まずは、ピアノの小池亜季との共演で、27歳のレーガーが続けて作曲した変イ長調と嬰ヘ短調、さらに9年後に手掛けた変ロ長調、3曲のクラリネット・ソナタを披露。そして、ヴァイオリンの印田千裕と竹内弦、ヴィオラ横畠俊介、チェロ印田陽介による弦楽四重奏団を交え、レーガーにとって最後の作品となったクラリネット五重奏曲を演奏する。

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