eぶらあぼ 2015.12月号
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第14回 前代未聞のクラウドファンディングに挑戦した結果… 今月末から3ヵ国のダンスフェス取材旅行用の資金調達のため、クラウドファンディング(以下「CF」)に挑んだ。目標額は30万円。が、舞踊評論家(オッサン)の、それも取材のためとは地味すぎる。苦戦は必至と思われた。 でもね、海外取材の渡航費や食事代などはほとんど自腹なのだ。オレも30年間、かなりの金額をつぎ込んできた。気軽に「いろいろ教えてくださいヨー」とかぬかす同業者に殺意を抱きつつな。助成金は制約が多い。それならば著作に対する評価をもとに、資金集めに挑戦しよう、半分だけでも集まれば、若い世代の励みになろうよ… が、フタを開けたらビックリだ。なんと2日。わずか2日間で満額達成してしまったのである! その後も増え続け、9日目には200%を突破してしまった。さあこれで評論家は「金がなくて海外取材に行けない」なんて言い訳はできなくなったぞ! CFには「潜在的なファンを可視化する効果」もある。舞踊評論を必要とする人々の存在と熱い思いを、目に見える形で認識できた。また寄付者にも「ダンスを応援している実感が嬉しい」という人もいた。両者がダイレクトにつながることで、次の取材を可能にしていく。もうこれしかないんじゃないかね。 なぜなら力はあっても開店休業状態の「評論家」なんぞはゴロゴロいるからだ。おまけに出版業界全体が激変し、みな生き残るため必死に知恵を絞っているなかで、「評論を書く場がない。嘆かわしい」なんてふんぞり返ってたら、そりゃ淘汰されるよ。あげく反知性主義とかいいだすけど、それって「オレの素晴らしさを理解できない社会が間違ってる」という、世間でいうところの中二病だぜ。二十歳過ぎて言ってたらバカだと思われるアレだ。特にアーティストはとっくにそこを通過してきてる。海外もバンバン回り、公演のたびにコミュニケーション能力も磨かれている。オタクに毛が生えたようなちょろい評論家など、腹の中で笑われてるぞ。 そんなことではいかんのだ。ダンスの重要性は、これからますます大きくなっていくのだし、良いダンスには、絶対に良い評論が必要なのだから。オレはそう信じている。それを一生かけて証明してやる。評論も、身内で褒め合う時代は終わったよ。人の心に届く表現として、ダンスと対峙していく時代になったのだ。だから若い世代に続いて欲しい。そのための希望を、このCFで示したいのである。 ただCFには、大きな弱点もある。「すでに力のある人間を強力にサポートできるが、若い才能を育てるには向いてない」ということだ。なぜなら、そこには「編集者」という存在が欠落しているからである。出版文化の中で編集者の一番大きな役割は、「書き手を発掘し、育てること」だとオレは思っている。ここが揺らいで若手が育たなければ、その先にあるCFも、結局は萎びていってしまうだろう。この両輪を育てなければならんぞ。あと寄付お願いします(11/24まで受付中!「乗越たかお クラウド」で検索!)。Prifileのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。うまい酒と良いダンスのため世界を巡る。乗越たかお285

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