eぶらあぼ 2015.10月号
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44よ。以前はニーベルング族の仲間だったのに、神々に寝返ったわけですし。一種の宮廷道化と見ることもできますね。シェイクスピアの『リア王』でもそうですが、一見阿呆で滑稽にも見える道化はその実、他の人が見ない真理を見抜く力があり、それを鋭い言葉で言い当てるのですから」 今回の衣裳は上着に炎のイメージを取り込みつつ、ほかの部分は弁護士にも見えるという。 「大統領ヴォータンの秘書といった感じもあります。いずれにせよローゲは実に多義的で複雑な役柄であり、台詞まわしをはじめ、演技の面で要求されるものは多いですが、それだけにやりがいを感じています」新国立劇場 2015/16シーズン オープニング公演 《ラインの黄金》(新制作)ゲッツ・フリードリヒ(演出) 飯守泰次郎(指揮) 東京フィルハーモニー交響楽団10/1(木)19:00、10/4(日)14:00、10/7(水)14:00、10/10(土)14:00、10/14(水)19:00、10/17(土)14:00 新国立劇場オペラパレス問 新国立劇場ボックスオフィス03-5352-9999 http://www.nntt.jac.go.jp/operaステファン・グールド(テノール) 新国立劇場《ラインの黄金》ローゲは要求されることの多い複雑な役です取材・文:山崎太郎Interview 新国立劇場《ニーベルングの指環》の新プロダクションでは、現代を代表するヘルデン・テノール、ステファン・グールドが向こう3年間、4部作全てにわたって出演するのも大きな話題だ。世界一のジークフリート歌いとして揺るぎない地位を築いたグールドだが、意外やジークムント役はコンサート上演で数回歌っただけ。これに全くの初役となるローゲを加え、《指環》の主要なテノールの役柄を完全制覇したい…そんな長年の夢が今回、日本で叶えられることになる。絶好の環境で挑む初役 この10月に開幕を迎える《ラインの黄金》では、初めてローゲ役として登場する。 「新しい役に取り組むとき、二次文献は読みませんし、他の歌手の録音も聴きません。自分の考えが固まる前に他人の解釈を知ると、先入観が入ってしまいますから。まずは頭をまっさらにして台本を読み、自分で逐語訳を作り、そのあとで音楽を逐一検討します。こうして役を自分の頭と体に十分取り入れてから練習に臨むわけです。トリスタンのときもそうでしたが、稽古の期間もたっぷりとれる新国立劇場は、初めての役を歌うには絶好の環境ですね」 今回歌う3つの役柄のうち、ローゲは純粋に声楽的な面から見れば、負担はそれほど大きくはないという。 「最高音はGで、数年前のウィーンのプロダクション(ベヒトルフ演出)では、バリトンのアドリアン・エレートをこの役に起用して大成功をおさめています。近年は性格的テノールが歌うことも多いのですが、ワーグナーはもともとローゲをヘルデン・テノールの役柄として想定していました。重い声のテノールが歌うことで、コミカルな面が減じるかわりに、神々しさや危険な感じが増します」劇の流れすべてを操作するローゲ 初役のローゲだが、どのように演じようと考えているのだろう? 「ローゲにはもちろん喜劇的な要素もありますが、この役を戯画化して滑稽に演じるのは間違いでしょう。ずる賢く、皮肉っぽくて、いたずら好きでもあるが、強大な破壊力も併せ持つ炎の神であることを忘れてはなりません。女神エルダが自然の『叡智』を表すのに対して、野生、荒々しさという意味の自然を代表するのがローゲだとも考えられます。さらには、報酬に女神を渡せと要求する巨人たちに黄金への興味をかきたてる場面で明らかなように、《ラインの黄金》の劇の流れをすべて操作するのもローゲです」 神々とローゲの関係も複雑だ。 「いわばヴォータンの参謀ですが、一方で急に老け込んだ神々を嘲笑するくだりに見られるように、彼らに遺恨も抱いている。ただ、ヴォータンがアルベリヒから指環を盗みとる手助けをしながらも、最終的にそれを手放すよう仕向けるのもローゲであるとしたら、ギリギリのところで指環の呪いから神々を救ったのが彼だとも考えられるでしょう。ラインの娘たちの願いを代弁しているようですが、どこまで彼女たちの味方なのか、それだって分かりませんPhoto:M.Terashi/Tokyo MDE

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