eぶらあぼ 2015.9月号
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30深作健太Kenta Fukasaku/演出越境したい。境界を壊したい。取材・文:藤本真由 写真:中村風詩人 映画『バトル・ロワイアル』シリーズの監督・脚本・プロデュースや、『スワン』『TABU タブー』といった舞台作品の演出など、映像、舞台の分野で幅広く活動する深作健太が、満を持してオペラ演出に挑戦する。世界的にもあまり上演例のないR.シュトラウスの《ダナエの愛》に東京二期会が取り組む舞台だ。黄金の雨に変身して処女ダナエと交わる主神ユピテルと、ふれるものすべてを黄金にしてしまうミダス王、この2つの神話を基にした物語である。 「二期会さんからお話をいただいたときは、うれしくて飛び上がりました(笑)。父親(深作欣二)の影響で、子供のころから映画監督になりたいと思っていたんですが、10代で反抗期を迎えまして。ちょうど80年代末、小劇場がブームになっていたころですね。蜷川幸雄さん、野田秀樹さん、鴻上尚史さんといった方々の舞台を観て、言葉の世界の豊かさにひかれるようになり、そこから歌舞伎やバレエなども観るようになりました。大学生のころ、ワーグナー作品でオペラと初めて出会いました。ハリー・クプファーがレーザー光線を使って演出した《ニーベルングの指環》など、“スター・ウォーズ”的世界が僕にはとても近しいものに感じられました。ハリウッド映画とオペラの世界との共通性を感じ、いつか自分もこういったアプローチで壮大な世界を表現してみたいと思うようになったんです」 パンクやロックといった音楽に親しんで育ち、後には深作欣二作品で選曲も担当。映像作品、演出作品共、ワーグナーやヴェルディなどのクラシック曲を用いることも多い。今回手がけるシュトラウスも、出会いはやはり映画『2001年宇宙の旅』で印象的に流れる「ツァラトゥストラはかく語りき」だったという。 「《サロメ》や《エレクトラ》あたりのとんがったシュトラウスから入っていって、後期の彼の音楽の美しさがわかるようになったのは30歳を過ぎてから。《ダナエの愛》は《ニーベルングの指環》をもどこか思わせる世界で、僕の中では、《ダナエ》の主神ユピテルは《指環》のヴォータンにも重なるところがあって、僕は結局ファザコンですから、ヴォータンは父とも重なる存在なのです(笑)。シュトラウスは、それまで同時代の華であった音楽が“クラシック”という言葉に閉じ込められていく、オペラの終焉の時代を生きた人。そんな彼自身が自画像的にユピテルに重ね合わされている部分もあると思うんです。僕は大学の卒論で谷崎潤一郎の『細雪』を取り上げたんですが、男性的な戦争の時代において女性的な世界を描き、したたかな女性讃歌を感じさせるという意味で、谷崎潤一郎と、女性名をタイトルに掲げた作品を多く作曲したシュトラウスには重なる部分もあると思っています」 シュトラウスの死後になって世界初演された《ダナエの愛》は、日本ではこれまで演奏会形式で一度取り上げられたのみ。舞台作品として初めて上演される今回、「奇をてらわず、真正面から取り組みたい」と語る。 「“黄金よりも大切なものとは何か”を問う作品でもあって、第3幕ではスコアに“荒野”と指定がある。一方で、今の日本はといえば戦後70年、瓦礫だらけだったところから復興し、そしてまた地震が来て瓦礫の世界となったわけですよね。シュトラウスの生きた20世紀初頭のウィーンと、戦後の焼け跡のヨーロッパと日本、そして現在の日本とがうまく重なり合うような舞台を目指し、あくまでもマエストロの準・メルクルさんとオーケストラの奏でる音をお客様に届けることを目標に、美しい音楽を聴かせるための演出にしたいですね」 映像、舞台、その中でもストレートプレイからオペラと、ジャンルを超える人材の活動は、各分野の活性化をもたらし、新たな観客層の掘り起こしにもつながる。「越境したい。境界を壊したい」と語る深作の今後の活躍に期待したい。

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