eぶらあぼ 2015.9月号
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29N響との未来に向けて、いま興奮しています取材・文:柴田克彦 写真:中村風詩人 世界的指揮者パーヴォ・ヤルヴィが、2015年9月からNHK交響楽団の首席指揮者に就任する。これはインパクトが大きいニュースだった。N響が8シーズンぶりに迎える常任の指揮者であり、任期は3年で海外公演も受け持つという。 「受諾した理由は、オーケストラの評判と質にあります。N響と共演した友人の指揮者やソリストたちが常に絶賛していましたし、私も様々な楽団と訪日した折に、日本の中心的存在であることを確認していました。今後大きなプロジェクトやツアーや録音の全てに責任を持つことになりますが、私が成すべきことは、音楽という言語の共有度を高めながら、満足できる結果を残すことだと思っています」 今年2月には、10年ぶりに客演し3プログラムを指揮。手応えを感じてもいる。 「非常に興奮し、次なる展開への熱意が生まれました。N響はいまとてもいい状態です。ドイツ的で豊かな音をもち、力強く精密で技術的な水準も高い。今後の佳きコラボレーションが、すこぶる楽しみです」 就任最初の2015/16シーズンは、10月と16年2月の定期公演各3プログラムのほか、10月のNHK音楽祭(10/8)と12月の「第九」(12/22,23,25,26,27)も指揮する。 「最初は“お互いをよく知るため”のシーズンですから、ドイツ、オーストリア、フランス、東欧、北欧の作品など、バラエティに富んだプログラムになっています。様式の異なるレパートリーへの対応と今後の展開を探る意味で我々にとっても興味深く、かつ聴衆の皆さんに楽しんでもらえるのではないでしょうか」 中心を成すのは、ソニーミュージックへCD録音も行うR.シュトラウスの作品だ。 「N響には、ドイツ・ロマン派、特にR.シュトラウスの演奏の伝統が根付いています。それは過去に偉大なドイツの指揮者と数多く共演してきたからでしょう。中でもシュトラウスの偉大な解釈者であるサヴァリッシュの存在は大きく、そのラインは大切にしていきたい。シュトラウスは、オーケストレーションのマスターであり、全てのセクションを最大限に使うことができます。また音楽表現が豊かで、伝統的な和声と半音階的な響きが絶妙に融合しています」 なお、今年2月に録音した第1弾『英雄の生涯&ドン・ファン』は、9月にリリースされる。これは意外にも彼にとってシュトラウスの大編成管弦楽曲の初録音。ソニーの資料で彼は、「これまで取り上げてこなかったのは、演奏に最適なオーケストラを探していたから。N響はまさにシュトラウスに相応しく、期待を上回る成果を得られた」と語っている。 ほかにも楽しみな演目が目白押しだが、ここでは主な曲に触れてもらおう。 「マーラーの交響曲第2番は、今年2月の第1番との連続性を鑑みた選曲。独唱と合唱付きの大作に挑む意図もあります。ブルックナーの交響曲第5番は、私が大好きな曲で、フィナーレはこれ以上ないほど素晴らしい。ですからN響との初のブルックナーはこの曲でと。ニールセンの交響曲第5番は、ブルックナー同様に名作だと確信している、ぜひ聴いていただきたい作品。非常に革新的で力強く、N響にもピッタリ合います。またトゥールの『アディトゥス』は、10年前にN響で日本初演しましたが、私が信頼する地元・エストニアの作曲家を再び紹介すると同時に、将来的なプロジェクトへの道を開く意味で取り上げようと考えました」 ソリストも、五嶋みどり、トルルス・モルク、マティアス・ゲルネ、ジャニーヌ・ヤンセンほか名手が揃う。 「友人であり頻繁に共演している演奏家を選びました。私はソリストというのは身近に感じる人がいいと思っています。彼らとは音楽的な絆を築いてきましたから、互いに快適な気持ちで演奏できます」 今後N響のどこを変えたいか?と聞くと、彼はこう語った。 「私は新任の楽団に行って『これからあなた方を変えます』などと言うことは絶対にありません。楽団各々の伝統の中で仕事をするべきだと考えていますし、そもそもそれが肌に合わなければポストを受けてはいません。伝統の中で互いの音楽的な理解度を高めていけば、新たな発見が生まれ、微妙な変化が生じると思っています」 新コンビへの期待は、限りなく高い。CD『R.シュトラウス:英雄の生涯&ドン・ファン』ソニーミュージックSICC-19003(SACDハイブリッド盤)¥3000+税 9/23(水・祝)発売

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