eぶらあぼ 2015.5月号
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70東京オペラシティ Bビー・トゥー・シー→C172 本條秀ひでじろう慈郎(三味線)日本の伝統音楽と絡まり結晶していくバッハの音楽文:江藤光紀マルティン・シュタットフェルト(ピアノ)若きバッハへのオマージュを込めて文:高坂はる香5/12(火)19:00 東京オペラシティ リサイタルホール問 東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999 http://www.operacity.jp5/27(水)19:00 渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール問 渋谷区文化総合センター大和田 ホール事務室03-3464-3252http://www.shibu-cul.jp他公演5/28(木)ミューザ川崎シンフォニーホール(044-520-0200)(曲/J.S.バッハ:イタリア協奏曲, ゴルトベルク変奏曲) 旬の若手演奏家が、バッハと現代音楽をつなぐユニークなプログラムを組む、東京オペラシティの『B→C』シリーズ。邦楽器もこれまで笛、尺八、箏などが登場したが、今回はなんと三味線の登場だ。 注目の若手、本條秀慈郎は桐朋学園短大で本條秀太郎に師事。師は現代音楽との交流をはじめ幅広い活動で知られているが、秀慈郎もその精神を汲んで、古典だけではなく現代作曲家への委嘱や洋楽器とのコラボレーション、さらには舞台、舞踊など様々なジャンルを横断することで、伝統楽器の新たな可能性を開拓している。 5月のリサイタルも、バッハとコンテンポラリーの併置にとどまらない意欲的なもの。縦横無尽に伏線を張り巡らせたプログラミングは、伝統楽器の技法的な広がりだけではなく、西洋音楽の表現が日本の伝統と絡まり結晶していく様を体験し理解させてくれ 「ゴルトベルク変奏曲」で初めて来日公演を行ったのが、ちょうど10年前の2005年。以来、幅広いレパートリーに取り組みながらもバッハ作品の探究に情熱を注いできたマルティン・シュタットフェルト。35歳を迎える今年、久しぶりの来日公演で再びオール・バッハ・プログラムを披露する。 02年バッハ国際コンクールに最年少で優勝。2年後にリリースした彼の「ゴルトベルク変奏曲」がグールドの名盤としきりに比較され、グールドの再来と称されたのは、そこにバッハの音楽の美しい構造を活かしながらも枠に捉われない、自由な感性があったためだろう。 今回シュタットフェルトが取り上げるのは、バッハのオルガン曲を自らピアノ編曲した作品を中心としたプログラム。かねてから見せていたクリエイティヴな素質が存分に発揮される内容だ。選曲にもこだわりが感じられる。バッハが20代から現在のシュタットフェルトのる。1680年代に楽譜が発行された三味線音楽「獅子踊り」とバッハの「音楽の捧げもの」を並べて、バッハと同時代の江戸を結びつける。「音楽の捧げもの」では兄弟子・本條秀五郎とのデュオによる三味線の「2声カノン(謎カノン)」を披露。およそ誰も考え付かなかったであろうアイディアだ。後半には大ベテラン・野坂操壽が演奏する二十五絃箏との二重奏(新実徳英とヴィラ=ロボス作品)もある。本條の演奏は躍動感あふれる気迫に満ちたもので、巨大な二十五絃箏との協奏ではシンフォニックな音のシャワーが客席に惜しみなく注ぎかけられるはずだ。このヴィヴィッド感は、ぜひライヴで味わいたい。年齢である30代半ばごろまでという若き日に書いた作品が集められ、自身が演奏家として歩んできた道のりを辿るような趣となっている。コラール前奏曲「暁の星のいと美しきかな」や、「トッカータとフーガ」BWV565は、バッハが20歳頃に書いたとされるオルガン曲。原曲の質感をスケールの大きなピアノで再現する。後半の「シャコンヌ」や「パッサカリア」の編曲版は、その大胆で緻密な編曲の才によってどんな音楽となるのか期待できそう。 歳を重ねてより深化した音楽性とともにシュタットフェルトが挑むバッハ。ホールで体験したい。©Adrian Bedoy

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