eぶらあぼ 2015.4月号
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サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン2015ミロ・クァルテットベートーヴェン・サイクルⅠ~Ⅴ文:山田真一音楽史の傑作を、“壮年期”の弦楽四重奏団で聴く5日間Informationサントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン2015(6/6~6/21)ミロ・クァルテットⅠ~Ⅴベートーヴェン:弦楽四重奏曲全曲Ⅰ 6/7(日)14:00 [第1番~第6番]Ⅱ 6/11(木)19:00 [第7番~第9番(ラズモフスキー第1番~第3番)]Ⅲ 6/13(土)19:00 [第10番~第12番]Ⅳ 6/18(木)19:00 [第15番、第13番(大フーガ付)]Ⅴ 6/20(土)19:00 [第14番、第16番、第13番第6楽章(アレグロ)]サントリーホール ブルーローズ(小)問 サントリーホールチケットセンター0570-55-0017http://suntory.jp/HALL 今年も6月に、サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデンの一環として、『ベートーヴェン弦楽四重奏曲 全曲演奏』が行われる。弦楽四重奏曲史における金字塔を毎年、世界の第一線で活躍するクァルテットで聴けるこの企画、室内楽ファンだけでなく、クラシック音楽愛好家には見逃せない存在だ。 今年の出演は、アメリカのミロ・クァルテット。名称はスペインの画家ホアン・ミロに由来するが、クァルテットの系譜としては、往年のグァルネリ弦楽四重奏団の影響下にあるアーティストたちの集まりだ。グァルネリ四重奏団といえば、ベートーヴェンを初めとする古典レパートリーに新しい解釈を吹き込んだ力量のあるアーティストだったが、そうした音楽に対する姿勢はミロ・クァルテットにも引き継がれている。自分たちが演奏しようとする音楽的意図や方向性が明確で、常に自分たちらしい音楽解釈に精進している点は恩師ゆずりだ。 結成以来、数々の室内楽、クァルテットの賞を受賞し、ディスク録音でも受賞歴がある。その受賞歴や、アメリカをはじめ世界の音楽シーンでの高い評価は、小稿で紹介しきれるものではないが、技術、解釈、音楽姿勢どれをとっても称賛されている。結成は1995年なので、今年20周年を迎える。それだけにアンサンブルには磨きが掛かり、4つのパートの間の音楽の受け渡しやバランスは自然で、聴く者を驚かせる。結成20年いえば、人生に例えれば“壮年期”にいるわけだが、音楽的も、体力的にも、まさに今が“聴き頃”のアーティストだ。 ベートーヴェンは恩師グァルネリ四重奏団も得意としていたが、ミロ・クァルテットもベートーヴェンに対する想いは熱い。 「ベートーヴェンの弦楽四重奏曲は“弦楽四重奏の心髄”で、聴くことにより、本当に人生が変わってしまうような、驚きの体験になる」と彼らは断言する。それを16曲すべて演奏しようというのだから、演奏する方はもちろん、聴く側の我々にとっても大きな音楽体験になることは間違いない。 「ベートーヴェンの音楽における感情の深まりと広がりは、他の作曲家なら、生涯最大の傑作でしか到達できないもの。ベートーヴェンでは、曲それぞれ、そして楽章の一つひとつが、人生最高の輝かしい瞬間であり、最も深く最も心に刻まれる機会となっている」と彼らは言う。 それだけ大きな意味を持つベートーヴェンの四重奏曲を、ディスク録音としても最初期の作品18から、有名な「ラズモフスキー弦楽四重奏」までをリリースしている。彼等の技量からすれば、すぐにでも全曲録音を連続して行うことも可能だろうが、「ベートーヴェンのクァルテットを弾くと、そのエネルギーと生命力が間違いなく聴き手を巻き込み、音楽家を巻き込み、もっともっと高いところを目指せと音楽家に迫る」というだけに、今回のような短期集中の全曲演奏を経て、納得のいく形でディスク・リリースを考えているのだろう。 もう一点、今回の企画で見逃せないのは、作品の完成順に演奏していくことだ。それだけに作曲順と番号が異なる第1回、第4回、第5回に注目だ。これはいわば、ベートーヴェンの作曲当時に身を置いて音楽と向き合うことになり、その点でも貴重な体験になるだろう。

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