eぶらあぼ 2015.3月号
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62©Chris Gloag紀尾井ホール開館20周年記念公演 中村恵理ソプラノリサイタル4/2(木)19:00 紀尾井ホール問 紀尾井ホールチケットセンター03-3237-0061 http://www.kioi-hall.or.jp他公演4/7(火) 川西市みつなかホール(072-740-1117)中村恵理(ソプラノ)国際的に活躍するソプラノ歌手の現いま在を聴く取材・文:宮本 明Interview いま最も聴いておくべきソプラノの一人だろう。バイエルン国立歌劇場専属歌手としてミュンヘンを拠点に活動している中村恵理が紀尾井ホールでリサイタルを開く。ネトレプコの代役としてロイヤル・オペラに出演し成功したのも記憶に新しい中村だが、リサイタル当日は、紀尾井ホールの20回目の開館記念日にあたる。 「光栄です。あまり堅苦しくなく、お祝いの雰囲気を出せるようなプログラムを考えました。前半は日本とイタリアの歌曲です。せっかく桜の季節の四谷なので『さくら横ちょう』を歌いたくて、まず中田喜直さんの歌曲を選びました」 後半はオペラ・ナンバー。 「グノーの《ロメオとジュリエット》は大好きなオペラ。その中でも一番気に入っている第4幕の二重唱は、華やかでドラマティックな、オペラの良いところがぎゅっと詰まっています」 着実に活躍の場を広げている彼女。昨秋にロンドンとザルツブルクで歌った初役の《リゴレット》のジルダも高い評価を得た。 「ひょっとしたらジルダはあの時(2014年2ヵ所での公演)が最後になるかもしれません。ジルダはドラマティックな声も必要ではあるものの、いまの私にはちょっと遅かったかなと思うのです。年齢につれて声が成熟して重くなっていますから、リリコのレパートリーのほうがいまの声に合っているし、感情を乗せられる役が多いので」 劇場は2~3年先の演目を決定し、出演のオファーを出すから、自分の声の変化を計算して出演を判断するのは難しい。しかし、高音の技巧だけでなく、中声域も充実した彼女のリアルな「歌」でソプラノ・リリコの膨大なレパートリーを聴く日を想像すると、わくわくしてくる。来年《ラ・ボエーム》のミミを歌うことになっているそうで、その結果で今後を判断したいという。 紀尾井ホールが誕生した1995年は阪神・淡路大震災の年でもある。彼女の運命も、災禍が変えた。当時兵庫県の高校に通い、音楽教員を目指して毎日ピアノの練習に打ち込んでいたが、ピアノどころではなくなった。 「そんな時、高校で、元気を出そうと『第九』を歌うことになり、歌ってみたら他の人より高い声が出ることに気づいたのです。すぐに声楽の先生のところに連れて行かれ、あれよあれよという間に声楽科を受験することになっていました」 これが彼女のスタート。震災がきっかけ、というのは不適切だけれど、世界の声楽界にとってまさに「禍を転じて福となす」出来事だったと言える。 リサイタルは、イタリア人のテノール、エマヌエーレ・ダグアンノが共演。残念ながら今のところ日本ではなかなか聴くことができない彼女の実演に接するチャンスを、逃してはならない。3/27(金)19:00 王子ホール問 1002(イチマルマルニ)03-3264-0244 http://www.1002.co.jpマレック・シュパキエヴィッチ(チェロ) ジャンルを超えて活躍する稀代の名手が初来日!文:笹田和人 豊潤な音色と、的確なテクニック。楽曲の全体像を捉える構築力と、その細部までつぶさに掬い上げる緻密さ。そんな多層的な演奏で、聴衆の心をがっしりと掴んでいるチェリストのマレック・シュパキエヴィッチ。ポーランド出身で渡米後に名門・南カリフォルニア大学などで学び、数々の国際コンクールを制して、欧米各国で活動を展開、「心の豊かさを与える演奏」と絶賛を受けている。彼は映画音楽作曲家としても活躍。共同で手掛けた『ネバーランド』が、2005年に第77回アカデミー作曲賞を受賞するなど、多才な人物でもある。 初の来日リサイタルプログラムはショパンとショスタコーヴィチによる2つの名ソナタを核に据え、ピアソラ「ル・グラン・タンゴ」と、自身の編曲によるドヴォルザーク「スラヴ舞曲」ホ短調を添える。ピアノは上海出身で室内楽や伴奏者として高く評価されるピアノのジアイ・シー。チェロの過去と未来、さらに自身のルーツと才能を巧みに反映させたプログラム。ぜひとも、体感してみたい。

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