eぶらあぼ 2015.3月号
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53飯守泰次郎 ©青柳 聡東京文化会館《響の森》 Vol.36 ドイツ・ロマンの森 ワーグナー & ブラームス名匠とともにロマン派の音楽の森に分け入ろう文:江藤光紀都響・八王子シリーズ 井上道義(指揮) 東京都交響楽団休日の午後、都の西で音が躍動する文:柴田克彦6/3(水)19:00 東京文化会館問 東京文化会館チケットサービス  03-5685-0650 http://www.t-bunka.jp3/29(日)15:00 オリンパスホール八王子問 都響ガイド03-3822-0727 http://www.tmso.or.jp 東京文化会館が贈る《響の森》シリーズ。36回目となる6月の公演は「ドイツ・ロマンの森」と題したプログラムのもと、ドイツ音楽のスペシャリスト、重鎮・飯守 指揮者、オーケストラ、ソリスト、会場…の4つが揃って注目される公演。 まずは指揮の井上道義。昨年10月に療養から復帰した彼を聴けること自体幸せだが、演目の「チャイコフスキー:三大バレエ・セレクション」が、期待度をより高める。3歳から15年間踊り(内7年間は本格的なバレエを習った)、一時はその道を目指した彼にとって、バレエ音楽は“肌に染みている”ジャンル。当然、持ち味の躍動感がMAXとなる。しかもその最高峰たる「眠りの森の美女」「白鳥の湖」「くるみ割り人形」の“井上道義ヴァージョン”は、以前3作をシャッフルして新しい組曲を作っているだけに、内容が実に楽しみだ。 そして都響の大容量で緻密なサウンドは、もはや外来一流にひけをとらないほど。カラフルでゴージャスなチャイコフスキーのバレエ音楽を、あの音で体感できるのは、これまた幸せというほかない。加えて、三大バレエをトップオケの演奏でまとめて聴く機会は、意外に貴重でもある。泰次郎が東京都交響楽団を指揮する。 飯守は若いころドイツの歌劇場を渡り歩いて本場の音楽を身につけ、70年代にはバイロイト音楽祭の音楽助手まで務めた指揮者。その仕事ぶりはワーグナーの孫ヴォルフガングからも高い評価を受けた。1990年代以降は国内のオーケストラを骨太に鳴らし、本家本流お墨付きのスタイルを日本という地で草の根から育んできた。現在は新国立劇場オペラ部門芸術監督の任にあり、まさに叩き上げで登りつめた職人肌のアーティストだ。 今回のプログラムは、そんな飯守の十八番ともいうべきワーグナーの歌劇《タンホイザー》序曲に始まる。巡礼僧たちの旋律に導かれて深々としたドイツの森に足を踏み入れた私たちを ソリストの萩原麻未は、2010年ジュネーヴ国際コンクールのピアノ部門で日本人初優勝以来、雄弁かつ瑞々しい演奏で聴く者を魅了している。自分の言葉で音楽を語る日本人には稀な個性と相まって、ライヴは常に要マーク。特に今回のグリーグの協奏曲は、録音待っているのは、媚薬による男女の濃密な愛の物語だ(楽劇《トリスタンとイゾルデ》より「前奏曲と愛の死」)。寄せては返す息の長いエクスタシーの波と、その先に訪れる悲劇を、飯守のタクトが都響の重厚なサウンドで描き出す。 後半はドイツ・ロマン派のもう一人の巨匠ブラームスの交響曲第4番。耽美のワーグナーに対してブラームスは古典的な均整美を重んじ、4つの傑作シンフォニーを放って、交響曲が低迷した時代にそのスタイルを復興した。第4番は憂いを帯びたしっとりとした気分が支配的だが、シャコンヌによるがっちりとした第4楽章にはブラームスらしい気概も読みとれる。も出した得意曲ゆえに、自在の名奏が期待される。 会場は2011年に誕生したJR八王子駅直結のオリンパスホール八王子。東京の西側のほうがアクセスが便利な方々にとって、好立地な会場だ。日曜3時開演とあれば、こぞって足を運びたい。萩原麻未 ©Akira Muto井上道義 ©加納典明

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