eぶらあぼ 2015.2月号
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37Music Weeks in TOKYO 2014 プラチナ・シリーズ 第5回 白井光子&ハルトムート・ヘル 世界最高峰のリートデュオ3/6(金)19:00 東京文化会館(小)問 東京文化会館チケットサービス03-5685-0650 http://www.t-bunka.jpリートで一緒に“人生経験”をしましょう取材・文:宮本 明Interview白井光子(メゾソプラノ) 「リートデュオという言葉を作ったのは私たちですから」 日本人ながらドイツリートの正統を継ぐ数少ない名歌手のひとり、白井光子がそう言うように、「リートデュオ」という言葉自体は、まだあまり市民権を得ていないかもしれない。それならまず白井とピアノのハルトムート・ヘルの演奏に耳を傾けてみよう。歌とピアノが一対一で対等に向き合い、寄り添う様子を聴きとれば、その意味は明白。歌に付随する存在という意味で用いるなら、「伴奏」という言葉はすでに死語なのだ。 「ピアノと歌には同じ重さがあって、どちらが欠けてもリートになりません。さまざまな情景を描写して、歌手が呼吸する空気や泳げる水を与えてくれるのはピアニストですから。演奏テクニックとしては、子音を発音するタイミングを共有することが大事なのですが、それを打ち合わせるようではダメなんです。お互いにもっと自由にならなければいけません」 3月のリサイタルではリスト、ブラームス、R.シュトラウスといったロマン派歌曲をたっぷり。しかし、それらは必ずしも有名曲ばかりではない、まさにいぶし銀的なプログラムだ。 「でも好きな曲ばかり。歌いたいものを自由に歌わせてくださるということだったので、大変うれしいです。今はこれ、という曲を選びました。ドイツ語がわからないという方にも、歌の“意志”を伝えたいですね。音楽に書かれていることを、一緒に再体験するような。そうすれば、聴く方それぞれの心の状態で音楽が違って聴こえると思うんです。私もいろんなところを歩んで来ましたので、一緒に“人生経験”をしましょう(笑)」 彼女の“人生”という言葉には重みを感じざるを得ない。8年前、突然の難病が襲った。ギラン・バレー症候群。全身の筋肉が麻痺して一時は生命の危機もあった。 「呼吸も不自由な状態なのに、歌詞を忘れてしまわないか怖くて、頭の中でずっと歌っていました」 リートへの執念がなせるわざだろう。 「ドイツリートの伝統を受け継いでいる人は、ドイツ人の中でも何人かしかいません。日本人の私がやったり、アメリカ人のトーマス・ハンプソンさんがやったり、『リートは国外で保護されている』と言われていた時期もありました。日常で使っている言葉ゆえに、詩のサブテクストを見逃してしまいがちなのかもしれませんね」 ドイツ語の歌の背景を、ドイツ人より理解し表現している日本人歌手がいる。私たちファンにも、うれしく、誇らしいことだ。3/10(火)19:00 Hakuju Hall問 Hakuju Hallチケットセンター 03-5478-8700 http://www.hakujuhall.jp堀米ゆず子(ヴァイオリン) J.S.バッハ/ブラームス プロジェクト at Hakuju Vol.4“2大B”の神髄を聴く文:笹田和人堀米ゆず子 ©T. Okura 「バッハは背骨のよう。ブラームスは心のひだ。感情表現の基本。この2人の作曲家は過去30年の演奏生活において、私の音楽作りの核となっています」 我が国を代表するヴァイオリンの名手・堀米ゆず子は、2人の偉大な作曲家のことを、こう捉えている。 そんな彼女が愛してやまない“2大B”の佳品を、最高の仲間たちとの共演を交えて特集する『堀米ゆず子 J.S.バッハ/ブラームス プロジェクト at Hakuju』。全6回からなる意欲的な取り組みも、今回で第4弾を迎えた。まず、山口裕之(ヴァイオリン)、小倉幸子とロジャー・チェイス(ヴィオラ)、辻本玲と木越洋(チェロ)という、世界的な弦の名手5人を迎えて、ブラームスの弦楽六重奏曲第2番を披露。そして、パリを拠点に世界の檜舞台で活躍する児玉桃(ピアノ)を迎えて、ブラームスのヴァイオリン・ソナタ第1番を弾く。さらに、堀米がソロで登場、バッハの無伴奏ソナタ第1番をじっくりと聴かせる。真摯な取り組みと温かな音色の向こうに、音楽への深い愛情が滲む。 ©堀田正矩

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