eぶらあぼ 2015.1月号
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70アレクサンダー・ガヴリリュク(ピアノ) 華やかさの奥に秘められた音楽の神髄文:高坂はる香三善晃先生 追悼コンサート 合唱曲と歌曲の夕べ&オーケストラの夕べ偉大な業績を振り返る2夜文:江藤光紀2015.1/17(土)13:00 横浜みなとみらいホール2015.1/20(火)19:00 東京オペラシティ コンサートホール問 ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040 http://www.japanarts.co.jp他公演 2015.1/14(水)ハーモニーホール福井(S・Y・T実行委員会0776-26-0393)、1/15(木)守山市民ホール(077-583-2532)合唱曲と歌曲の夕べ 2015.2/5(木)19:00オーケストラの夕べ 2015.2/6(金)19:00東京オペラシティ コンサートホール問 桐朋学園演奏課03-3307-4158/東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999http://www.tohomusic.ac.jp 1984年ウクライナ生まれのアレクサンダー・ガヴリリュク。30歳にして、心の奥深くを揺さぶる特別な音を鳴らすことのできるピアニストだ。 ガヴリリュクは、2000年、わずか16歳で浜松国際ピアノコンクールに優勝 2013年秋に三善晃の訃報が伝わった時、「作曲の戦後が終わった」と感じた人も多かったのではないか。緻密な作風で人気を二分していた武満徹が孤高を貫いたのとは異なり、三善は常にアカデミズムのトップにいた。彼のすごいところは、それだけの重責(多くは創作活動とは関係のない業務)を果たしながら、質量ともに創作の密度が全く落ちなかった点だ。鋭い耳に裏打ちされた完璧なエクリチュールをひっさげてデビューしながら、生と死を鋭く見つめ端正な作風を自らつき崩していった。同時に長年にわたって桐朋学園大学の教師、さらに学長を務め、多くの後進を育てた。三善こそ戦後日本作曲界の偉大なる父といっても過言ではなかろう。 来る2月、その業績を振り返るコンサートが桐朋学園の関係者たちによって2夜にわたり行われる。5日は合唱曲と歌曲の夕べ。三善の紡ぐポエジーしたことで、日本では早くから注目を集めていた。有望な才能として期待される中、02年に交通事故に遭い重傷を負う。しかしその後奇跡的な復帰を遂げ、05年ルービンシュタイン国際ピアノコンクールに優勝。さまざまな困難を乗り越えた演奏家の魂は、ますます味わい深い音楽を生むようになった。 今回の来日リサイタルは4年ぶりということで、待ち望んでいたピアノ好きも多いことだろう。心の底からあふれ出す感情を、ガヴリリュクはさまざまな音を使って表現する。緻密に構成されたブラームスの「パガニーニの主題による変奏曲」、歌い、叫ぶような美しくもは文学と深く強振し、音楽と言葉のあわいに斬新なリリシズムの領域を切り開いた。その軌跡をたどる。独唱曲には腰越満美、与那城敬、半田美和子が名を連ねる。6日はオーケストラ作品の夕べ。60年代のヴァイオリン協奏曲やピアノ協奏曲が抜きんでた書法で同時代人を驚嘆させたとするなら、80年代の「響紋」は冥界へと大胆に踏み込んで聴き手を震撼させた。90年代の「焉歌・波摘み」では打ち寄せる波の間に死者の声を聴く。桐朋学園オーケストラを指揮する沼尻竜典は三善への敬愛を隠さないが、彼自身も広い意味では三善の教育が生んだ成果。壮絶なドラマを聴かせてくれるはずだ。生々しいワーグナー=リストの「イゾルデの愛の死」。また同じウクライナ生まれの巨匠ホロヴィッツが編曲した「死の舞踏」や「ラコッツィ行進曲」では、彼が受け継いだロシアン・ピアニズムの精神を聴くことができるだろう。「演奏に最も刺激を与えるのは聴衆とのつながり。音楽で一つになる瞬間は、人間は個々に異なるものでも、深い所で何かが共通していることを証明してくれる」と語るガヴリリュク。超絶技巧作品が並ぶが、彼が技巧を披露するためにこの曲目を選んだわけではないのは明らかだ。華やかさの奥に秘められた音楽の神髄をしっかりと聴き取りたい。©Mika Bovan三善 晃

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