eぶらあぼ 2015.1月号
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65CD『J.S.バッハ:管弦楽組曲(ピアノ編)』マイスター・ミュージックMM-3037~38(2枚組)¥3790+税12/24(水)発売Photo:Junichi Ohnoピアノ独奏版で聴くバッハの管弦楽組曲取材・文:飯田有抄Interviewカール=アンドレアス・コリー(ピアノ) 平均律クラヴィーア曲集、イギリス及びフランス組曲、パルティータ全曲など、J.S.バッハの鍵盤楽器作品の録音をほぼ網羅的にリリースしてきたカール=アンドレアス・コリー。今回の新譜は、コリー自身の編曲によるピアノ独奏版の管弦楽組曲第1~4番全曲録音である。全曲のピアノ編曲版の録音は世界的に見ても非常に貴重だ。ブリリアントかつ重厚な響きに満ち、聴き応えたっぷりの2枚組みに仕上がった。 「『管弦楽組曲』はオーケストラの各楽器がよく響き、それぞれの声部に多様なフレーズが登場する作品なので、ピアノ一台の演奏のためにどうまとめるかは大変難しくもありました。しかし、バッハはもともと楽器指定にはそれほど大きな意味を持たせておらず、音楽そのもの、ポリフォニーの扱いそのものに力点を置いていますから、その意味では音色の配慮にとらわれ過ぎず、ハーモニーにとって重要な音を確実に再現しています」 驚くべきは、編曲をするにあたり、コリーはいわゆるピアノ譜に書き起こす作業はしていないということだ。 「ピアノ用スコアは僕の頭の中にあり、演奏時にはバッハがオーケストラ用に書いたスコアを譜面台に置き、それを見ながら演奏しています。レコーディングではもちろん何テイクか録りますが、弾く度にアレンジが変わるということはありません」 なぜそのようなことが可能なのか。コリーは現在チューリッヒ音楽院で世界中から集まるピアノ科の学生を指導しており、学生がレッスンでベートーヴェンやブラームスのピアノ協奏曲のソロパートを弾く時、彼はいつもオーケストラ譜を見てその場でピアノ伴奏を付けているのだ。バッハの鍵盤作品の語法に熟知したコリーにとって、スコアからダイレクトに2手のために音楽を紡ぎ出すことは、いたって自然な作業なのかもしれない。 「どの声部を取捨選択するか、どこまでを分散和音で弾くか、装飾音はどう入れるかといったことは、最新の音楽学的な研究成果を参照しつつ、バッハの完成度の高い音楽を浮かび上がらせることを第一に考えています。過去になされたピアノアレンジでは、分散和音に頼り過ぎていて聴いていると飽きてしまったり、大事な低音が抜けていたりしますが、僕の録音は聴き手の皆さんに集中して楽しんでもらうことも意識しています」 来年春には、バッハの「小プレリュードと小フーガ」という可愛らしくも抒情的な曲集のCDリリース、そして夏には「ブランデンブルク協奏曲」全曲の録音も予定している。多様なアングルからバッハに迫るコリーのピアノに益々注目したい。2015.1/24(土)14:00 よみうり大手町ホール問 コンサートオフィスアルテ  03-3352-7310モーツァルト+1シリーズ Vol.5 中澤きみ子(ヴァイオリン) Mozartシリーズ・ラストはオール・モーツァルト文:笹田和人中澤きみ子 ストラディヴァリウスの名器「ダ・ヴィンチ」で、艶やかな音色と豊かな音楽性で聴衆の耳を虜にしているヴァイオリンの中澤きみ子。ザルツブルク・モーツァルテウム音楽院に学び、モーツァルトの作品解釈で特に高い評価を得る彼女が、2011年から神童の誕生日に始めたコンサート・シリーズ「モーツァルト+1」。イタマール・ゴラン(ピアノ)や宮田大(チェロ)、アンサンブル・ウィーン東京といった“音の仲間たち”と共に、ソナタからクァルテット、トリオなど多彩な形でモーツァルトの魅力を掘り下げてきた。 その第5弾では、コンサートマスターに東京交響楽団の廣岡克隆を迎えた、特別編成の室内合奏団が共演。ヴァイオリン協奏曲第1番・第5番と「アダージョホ長調K.261」をメインに据えた。さらに、これまでは「+1」としてモーツァルト以外の作曲家も選んできた同シリーズだが、今回は特別ゲストの宮沢明子(ピアノ)と共演し、ヴァイオリン・ソナタ第34番K.378を披露。オール・モーツァルト・プログラムで、シリーズのピリオドを打つ。

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