eぶらあぼ 2015.1月号
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38 オペラ界でいま大流行しているのが、劇場公演を中継し、世界中の映画館で舞台を楽しんでもらう「ライブビューイング」のシステム。欧米まで出かけなくてもステージの臨場感は十分に伝わるし、DVDを眺めるよりも遥かに大きな音響に包まれるから、全身で音楽に浸れるのが嬉しいところ。ゆったりサイズの客席で寛ぎながら、疲れた心をリフレッシュさせつつ楽しめるので筆者も日常的に足を運んでいる。 さて、名だたる歌劇場がライブビューイングに取り組む昨今、英国ロイヤル・オペラ・ハウスの特徴は、まずは「定番の人気オペラを大スターの競演で」披露するという王道路線、そして「観たことをずっと自慢できる」ような、千載一遇のステージを提供しようという2点だろう。なお、現地からの時差中継のためにどの演目も上映は“一回限り”という点は、先に抑えておきたいポイント。極上の数時間を愉しむべく日程は早々に確保しておきたい。2015年のスケジュールを眺めると、オペラが5つにバレエが2つ。どれも心そそられるプロダクションであり、筆者も手帳に「7/6は大阪で」とメモしたばかり!このラインナップなら期待大である。それではステージごとに紹介を。 まずは人気のイタリア・オペラ《アンドレア・シェニエ》(1/30)。革命期に信念を貫いた詩人シェニエと伯爵令嬢マッダレーナの恋を描く名作だが、今回の目玉はやはりテノール界のスター、ヨナス・カウフマン。彼の厚くて色濃い美声と際立つ容姿はこの役にまさにうってつけだろう。 続いてはワーグナーの出世作《さまよえるオランダ人》(2/25)。イギリスが誇る演技達者の大バリトン、ブリン・ターフェルが怪奇伝説の主人公に挑む。 バレエの傑作《白鳥の湖》も登場(3/18)。ダンサーの熱演はもちろんだが、チャイコフスキーの音楽も絶品。誰もが知るオーボエの哀しいメロディや第1幕の流麗なワルツといった名曲を舞台と共に味わってみては? 「けだるい調べが善と悪の境界線にさまよう」《マハゴニー市の興亡》(4/2)も観のがせない。クルト・ワイルの音楽は有名でも、このオペラの全幕を通してロイヤル・オペラを中継映像で満喫文:岸 純信(オペラ研究家)観た人は案外少ないのでは。今回は売春あっせん業のやり手の未亡人役を貴族出身のアンネ・ゾフィー・フォン・オッターが演ずるとのこと。抜群の演技力で立ち回る彼女の雄姿もいちどは観ておきたい。 バレエ公演をもう一つ。ロマンティックなコメディー・バレエ《ラ・フィーユ・マル・ガルデ》(5/6)。村の男女に道化役の青年(でも気立ては良い!)がコミカルに絡み、有名なリボン・ダンスなど見どころも多い人気作である。 プッチーニの名作《ラ・ボエーム》(6/11)も大いに楽しみにしたいところ。ストレートな表現を得意とするアンナ・ネトレプコと素朴な歌いぶりで人気のテノール、ジョゼフ・カレヤの顔合わせで、青春群像の悲恋オペラをたっぷり味わってみたい。 シーズンの終わりは、ロッシーニのオペラ超大作《ウィリアム・テル》が、オリジナルのフランス語版でついに観られることに(7/6)。指揮者アントニオ・パッパーノの豪腕ぶりは、絶賛されたCD全曲盤でも既に明らか。知らない人の居ないスピーディな行進曲から、悪代官を倒して独立に向かうスイスの人々の希望のフィナーレまで、歌声とオーケストラのドラマティックな饗宴を堪能してみて欲しい。ロイヤル・オペラ・ハウス LIVE CINEMA SEASON 2014/15開催期間:~2015.7/6(月) 各回19:00上映劇場などの詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。http://t-joy.net/roh_2014ロイヤル・オペラ・ハウスLIVE CINEMA SEASON 2014/15《愛の妙薬》より ヴィットリオ・グリゴーロ(ネモリーノ)とルーシー・クロウ(アディーナ) ©ROH/Catherine Ashmore

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