eぶらあぼ 2014.8月号
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26下野竜也 ©読響 それは感動的な光景だった。2013年2月、下野竜也の読響正指揮者としての最終公演、つまりブルックナーの交響曲第5番の終演後、一人ステージで喝采を浴びる下野は涙を拭っていた。そのとき観客が贈ったのは、7年間正指揮者を務め、ドヴォルザークの交響曲全曲はじめ多大な成果を挙げた彼をねぎらうと同時に、いま聴いたブルックナー演奏の素晴らしさを讃える温か下野竜也(指揮) 読売日本交響楽団伝統的な「交響曲第9番」の軽妙な幕開けと感動の終焉文:柴田克彦第540回 定期演奏会 9/9(火)19:00 サントリーホール問 読響チケットセンター0570-00-4390 http://yomikyo.or.jpアントン・ナヌート(指揮) 紀尾井シンフォニエッタ東京“幻”から超王道をいく真の巨匠へ文:柴田克彦第96回 定期演奏会 9/19(金)19:00、9/20(土)14:00 紀尾井ホール問 紀尾井ホールチケットセンター03-3237-0061 http://www.kioi-hall.or.jp 「実在しないのでは?」とさえ言われていた“伝説の指揮者”アントン・ナヌートが、2009年紀尾井シンフォニエッタ東京の定期に登場したとき、ファンはみな驚いた。 1932年スロヴェニア生まれの彼は、同国各楽団のシェフを歴任したほか、約200の国外オケに客演し、約150タイトルのCDを録音している大家だが、当時はCDに名を残すのみで、実像が全く伝えられていなかった。ところが、現実に姿を現しただけでなく、室内オーケストラの緻密さとフル・オーケストラのような重厚なスケール感を共生させた見事なベートーヴェンを披露したのだ。 そして2013年に再登場。ブラームスの交響曲第4番他の名演で、真の巨匠ぶりを示し、82歳を迎える今年9月、3度目の客演に至る。 今回は、ベートーヴェンの「レオノーレ」序曲第3番と「英雄」交響曲に、シューベルトの「未完成」交響曲を挟んだ、これ以上ない王道プログラム。初登場時に「運命」などで聴衆を魅了したベートーヴェンへのさらなる期待も、むろん大きい。ナヌートの特徴は、推進力を保った運びの中で、味わいや重厚さを表出していく点。「英雄」では、曲調からその魅力が全開となり、「未完成」では、前回の「ジークフリート牧歌」で示した“淀みなく流れる繊細で瑞々しい歌”が、新鮮な効果を発揮するに違いない。さらに、ハイクオリティのアンサンブルと800席の会場とが相まって、大ホールでの演奏で耳慣れた楽曲の、“細かな綾”をリアルに感知できる点が、貴重かつ贅沢だ。 リピーターはもちろん、前2回を聴き逃した人は今度こそ、巨匠ナヌートの音楽を生で体験したい。な拍手だった。 その後首席客演指揮者となった下野が、9月の読響定期で再びブルックナーを聴かせる。曲は最期の交響曲第9番。至福・至高の名作だけに、5番以上の感銘を期待するのは当然だろう。自身認める“ブルックナー派”の下野は、大阪フィル指揮研究員時代に朝比奈隆、読響時代にスクロヴァチェフスキという両巨匠の音楽作りに接し、読響では4番、他の楽団では9番を含む数曲を取り上げてきた。彼のブルックナーは、両雄とはまた違って、緻密・緊密に構築しながら自然な味わいとスケール感を創出するスタイル。いわば“大言せずして雄弁に語る”点が魅力を成す。今回は、この特徴が彼岸の情感漂う第9番で存分に発揮され、重厚で壮麗な読響のサウンドも大きく寄与するに違いない。さらに前半がハイドンの交響曲第9番(!)。これは、管楽のみのトリオをもつメヌエットが終楽章に置かれた、面白い構成(ブルックナーの9番同様に快速フィナーレを欠いた)の3楽章交響曲だが、生演奏を耳にする機会はほとんどない。古典的交響曲の最初と最後の“第九”を並べるセンスは、まさに下野の面目躍如。あらゆる意味で足を運ばずにはおれない公演だ。アントン・ナヌート ©Tadej Majhenic

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