eぶらあぼ 2014.8月号
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 そもそもミュージカルを観たことはあるだろうか? 日本を席巻中のミュージカル映画『アナと雪の女王』しかり、スクリーンを通して観たことがある人は多いはず。問題は「生のステージを観たことがあるか?」ということだ。となると10人中3人程度ではないか(勝手な予想ではありますが)。 つい先日、ミュージカルとは無縁の生活を送る友人に、こんなことを言われた。「結構周りにミュージカルに興味はある人はいるけど、行く機会がないんだよね。チケットを取るのが面倒だったり、料金が高いから懐具合を考えるとためらっちゃったり」 世の中のあちこちで、『アナと雪の女王』の挿入歌、“Let It Go”が流れていようが「ミュージカルを観に劇場に行く」という行為は、日本ではまだまだ一般的ではないらしい。その理由はいろいろあるだろうが、まず映画や本と違って、ミュージカルをはじめ舞台芸術に出合えるかは、個人の環境にかなり左右される。タカラヅカ好きが、親子何代にもわたってタカラヅカ・ファンであるように。加えて日本のミュージカルのチケット代は平均1万2、3千円なので、高額商品ではある。一方でミュージカルファンの中には、同じ作品を何度も(10回、20回!)観る人が大勢いるのも事実。じつは日本のミュージカルを支えているのは、そうしたヘビーなファンでもある。俳優に恋してしまった人、物語の世界にハマった人……ミュージカルにハマる理由は人それぞれ。私の場合、最初の衝撃はやはり『レ・ミゼラブル』。それはジャン・バルジャンの激動の人生やエポニーヌの恋心がまざまざと、歌を通して身体にしみ込んでくる“体験”だった。しかし本当の意味でハマったきっかけはブロードウェイで『ブリング・インダ・ノイズ・ブリング・インダ・ファンク』、それから『ローマで起った奇妙な出来事』を立て続けに観たことだったように思う。ちなみにこの2作、まったくタイプが違う。前者はセヴィオン・グローヴァー振付・主演のタップで綴るアフリカン・アメリカンの歴史であり、後者は音楽こそ巨匠スティーヴン・ソンドハイムだが、ドリフのコントを彷彿させるミュージカルコメディ。要するに「ミュージカルってこんなに幅広いの!?」ということにびっくりしたわけである。そう、ミュージカルの一番の魅力は“なんでもあり”なところなのだ。 そしてやはり音楽の力は絶大だ。琴線に触れる曲に出合うと、それを生で聴くために劇場に行きたくてたまらなくなる。それはまさしく生理現象。そして、ミュージカルを観ている間には、“飛べる”瞬間があるのだ。日常からふっと飛んだような感覚、その快感を味わったら、もう抜け出せない。せりふだけでは伝えきれない感情が生まれたとき、音楽やダンスがそのすべてを表現するツールとなる。それこそが、ザッツ・ミュージカルなのである。うだかなえ/映画会社で宣伝の仕事に携わった後、渡米。約8年間、ブロードウェイで舞台を観まくるとともにNY大学エンターテイメントビジネスコースで学ぶ。現在はミュージカルをはじめ演劇、映画などを中心に取材、執筆中。 あぁ、ミュージカル! 〈第1回〉文:宇田夏苗コラムProleこのコラムでは、バレエ・ダンス・ミュージカルなど、様々なジャンルのライターが隔月で登場。「舞台」をキーワードに舞台のあらゆる魅力について語ります。226

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