eぶらあぼ 2014.7月号
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最終回 楽都松本洋食三昧ファルスタッフ:鶏が6羽:6シリングシェリー酒が30本:2ポンド七面鳥が3羽……財布の中を探してくれ雉子が2羽、アンチョビ……ジュゼッペ・ヴェルディ<ファルスタッフ>より 雲ひとつない青空の下、信州の雄大な山並みを背景にそびえる松本城の姿に圧倒的な感動を覚える。この日、長野県松本文化会館(キッセイ文化ホール)で、長野県少年少女合唱祭が行われた。筆者は信州国際音楽村少年少女合唱団の指揮および中学生向けのワークショップ講師を務めた。 さて、この催しに参加するため、前日から現地入りした。松本と言えば、サイトウ・キネンやスズキ・メソードのお膝元でもある“楽都”だ。さっそく同僚の音楽家たちに、松本のグルメ情報提供を呼びかけると、ありとあらゆる情報が寄せられた。そしてさんざん迷った挙げ句、地元出身の若き歌手から勧められた老舗洋食屋へ足を運んだ。 その店の名は「民芸レストラン 盛よし」。街にはそれほど人通りがあったわけでもないのに、レストランは大盛況だ。店内の黒板に書かれた本日のオススメ定食からBを選ぶ。カニクリーム・コロッケと白身魚のミルフィーユ(?)そしておろしハンバーグという献立。始めにピリ辛に味付けされたもやしと、グレープフルーツの半輪切りが添えられたグリーンサラダが運ばれてくる。体脂肪率を常に気にせねばならないメタボ世代としては、たっぷりの野菜から食事を始められるのが大変ありがたい。しばらくすると、メインディッシュと共にごはんと味噌汁が運ばれてくる。クリーム・コロッケを米飯と味噌汁で頂くとは、まさに由緒正しき日本の洋食。仰天したのはそのボリュームだ。コロッケ、白身魚、ハンバーグがワン・プレートに少しずつ盛られているものだとばかり思い込んでいたのだが、実際にはコロッケ&白身魚とハンバーグが2皿に分けられており、しかもそれぞれが通常一人前として認識される量なのである。さらに鉄板の上でまだグツグツと音を立てているハンバーグには、チーズのかかったマッシュドポテトまで添えられている。さすがは若人の紹介店だと妙に感心。白身魚のミルフィーユはなんだか甘めのチリソース的味付け。何がミルフィーユ(多層)になっているのだかさっぱりわからないが、ものすごく白飯に合う。カニクリーム・コロッケはサクッとした衣の口当たりと中からトロリと溢れるソースのバランスが絶妙。大根おろしがたっぷりとのったハンバーグはみたらしや照り焼きに通じる味付け。甘塩っぱい醤油ベースのたれに、またしてもごはんが進む。少し濃いめの味噌汁に信州へ来たことを実感させられる。結局パセリひとつ残すことなく全てを平らげた。大満足で表に出ると少し寒く感じられるくらいの夜風が心地よい。歴史遺産と美味いものに恵まれたこの街が大層気に入った。この地でいつか、裏声歌手を必要とするオペラが上演されますように。♪「食べる音楽」は今回で最終回となります。ご愛読ありがとうございました。今後は演奏会場でお目にかかりましょう !千葉大学卒業。同学大学院修了。東京芸術大学声楽科卒業。1999年よりイタリア国内外劇場でのオペラ、演奏会に出演。放送大学、学習院生涯学習センター講師。在日本フェッラーラ・ルネサンス文化大使。バル・ダンツァ文化協会創設会員。日本演奏連盟、二期会会員。「まいにちイタリア語」(NHK出版)、「教育音楽」(音楽之友社)に連載中。著作「イタリア貴族養成講座」(集英社)、CD「イタリア古典歌曲」(キングインターナショナル)「シレーヌたちのハーモニー」(Tactus)平成24年度(第63回)芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。157

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