eぶらあぼ 2014.6月号
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195 本号では前号に引き続き、夏の音楽祭を中心としたコメントを掲載しますが、スペースに限りがあるため、本文情報で取り上げられなかった音楽祭もたくさんあります。注目音楽祭の重要な情報源として、先月号でもご紹介した、旅行会社オペラツアーズ・オルフェウス(本欄に広告掲載)の担当者のホームページ(http://orphique.clique.jp/)にあるリンク集を一度ご覧になることをお薦めします。何かしらの発見が必ずあると思います。●【夏の音楽祭】(8月分)〔Ⅰ〕オーストリア 「ザルツブルク音楽祭」については、2012年以来総監督の職にあったアレキサンダー・ペレイラが今年を最後に退任となり、来シーズンよりミラノ・スカラ座の総監督に転じるという話題が音楽祭の内容以外に大きなトピックとなっている。ペレイラ時代のオペラは、新制作1年限りの上演で再演を行わないことをを基本方針としていたため、どうしても制作費がかさんでしまう代わりに、毎年新しい舞台ばかりを見ることができるという楽しみもあった。その意味での「豪華」な舞台はとりあえず今年が見納めになるのかもしれない。という意図もこめて、特に今年のオペラ公演にはほとんど注目の◎印を付けた。ただし、このうち、現代作曲家ダルバヴィの新作「シャルロット・サロモン」は、スカラ座が今後ザルツブルク音楽祭から買い取る予定の6本のプロダクションに含まれているため、おそらくは来シーズンのミラノ・スカラ座のラインナップに加わるものと思われる。他のオペラでは、当初のメータからウェルザー=メストに指揮者が代わり、最近、オペラ新制作の機会が復活している大御所ハリー・クップファーの演出になるR.シュトラウス「ばらの騎士」や、メッツマッハーがペーター・シュタインの演出で上演するシューベルトの「フィエラブラス」などがまずは注目。もちろん、ネトレプコとドミンゴの出演する「トロヴァトーレ」もすでにチケット売り切れ、バルトリ出演のロッシーニ「チェネレントラ」やフローレスの登場する「ファヴォリータ」なども豪勢な歌手陣だ。オーケストラでは、ミンコフスキやフェドセーエフの指揮するモーツァルト・マチネー、サロネン指揮フィルハーモニア管などが要注目。 「ブレゲンツ音楽祭」では、fp.グルーバーの舞台作品が注目公演。「インスブルック音楽祭」では、チロル州立劇場でのオペラ2公演(ヘンデル「アルミラ」、D.スカルラッティ「ナルチーゾ」)のほか、アーノルト・シェーンベルク合唱団のバッハのモテット集が聴きものだ。〔Ⅱ〕ドイツ 「シュレスヴィッヒ・ホルシュタイン音楽祭」、「MDR音楽の夏」、「ラインガウ音楽祭」は、共に性格の似た広域音楽祭。本欄では主要公演しか取り上げていないので、公演の全容や公演地・会場の詳細は、ぜひ音楽祭HP等でご確認いただきたい。「シュレスヴィッヒ・ホルシュタイン音楽祭」では、ヘンゲルブロックがハンブルク北ドイツ放送響を振って演奏するメンデルスゾーンの「エリア」や、ダウスゴーがスウェーデン室内管を振る一連の公演が要注目。「ラインガウ音楽祭」では、本文に取り上げた地区の他にも、ヴィースバーデンから西に約20キロ離れたヨハネスブルク城(ガイゼンハイムの郊外)で、室内楽の優れた演奏会が連日開かれているので、是非HPでご確認いただきたい。「ブレーメン音楽祭」には、サヴァール指揮エスペリオンXXIの「バルカン地方を巡る音楽」や、ミンコフスキが指揮するグルックの「オルフェオとエウリディーチェ」といった注目公演がある。「バイロイト音楽祭」については、キリル・ペトレンコが振る2年目の「リング」の出来が何と言っても興味の的。〔Ⅲ〕スイス 「ルツェルン国際音楽祭」は「主(あるじ)」であったアバドの逝去を受け、アンドリス・ネルソンスがその演奏会の後を任せられる形となっているが、注目度としては、むしろラトルがルツェルン祝祭アカデミー管に客演して、チン・ウンスクの新作を演奏する公演の方が高いようにも思う。五嶋みどりがオーストリアの現代作曲家J.M.シュタウトの新作ヴァイオリン協奏曲を弾くのも興味深い。ちなみに、彼女は、バッハの無伴奏ヴァイオリンのための作品ばかりを弾く2夜のコンサートも行うが、これは間違いなく聴きものだろう。今年初めに亡くなったハープ奏者のウルスラ・ホリガー(オーボエのハインツ・ホリガー夫人)を追悼する演奏会がツェートマイヤーらにより開催される。残念な訃報だったが、この音楽祭でハインツ・ホリガー自身が指揮のマスタークラスを開いてくれるというのは嬉しい限り。まだまだ元気でいてほしい。〔Ⅳ〕イタリア イタリアの夏の音楽祭といえば「ヴェローナ野外音楽祭」を思い浮かべる方も多いだろうが、阿部寛扮する古代ローマ時代の浴場設計技師が大活躍する映画「テルマエロマエ」の大ヒットも影響して、ローマのカラカラ浴場遺跡を訪れる日本人客も増えていると聞く。この世界遺産でもある浴場跡にセットを組んでローマ歌劇場が夏の間に公演を行う「カラカラ浴場でのオペラ」も今や旬。映画の番宣というわけでもないが、オペラ・ファンに限らず、映画マニア、浴場遺跡マニア(?)の方にもぜひお薦めしたい。他に「ペーザロ・ロッシーニ・フェスティヴァル」で上演されるロッシーニの珍しいオペラ(今年は「アルミーダ」や「パルミラのアウレリアーノ」)も大いに楽しみ。〔Ⅴ〕フランス・〔Ⅵ〕ベネルクス フランスやベネルクス地域の8月の音楽祭は、実は本稿中に掲載しただけでは十分ではなく、特に古楽を中心とした魅力的な音楽祭がフランスのサブレ=シュル=サルト、ベルギーのアントワープやブリュージュ、オランダのユトレヒトなどでいくつも開催されている。これらは、恐縮ながら、本稿中にある旅行会社オペラツアーズ・オルフェウスの記事をご参照いただきたい。注目古楽祭として音楽祭HPアドレスが紹介されている。〔Ⅶ〕イギリス(〔Ⅷ〕北欧は省略) 「エディンバラ国際フェスティバル」では、若干玄人好みではあるが、ビエロフラーヴェク指揮のチェコ・フィルが、マルティヌーの交響曲や、スメタナの弦楽四重奏曲第1番を指揮者のジョージ・セルが管弦楽用に編曲した作品を上演するのがとても楽しみ。来日公演ではこうしたマニア指向のプログラムにはまず接することができないので、興味のある向きにはこの公演は大変重要。「プロムス」は、いつもながらの物量に圧倒されるが、オーケストラはとりあえず置いて、イギリス注目の現代作曲家ジョン・タヴナー(16世紀のイングランドの大作曲家ジョン・タヴァナーとは別人)の新作レクイエム(断章)をタリス・スコラーズが演奏するコンサートに◎印を付けてみた。清冽な声楽アンサンブルの響きに心洗われること必至。〔Ⅸ〕東欧 昨年に続き、8月後半にワルシャワで開催される「ショパンと彼のヨーロッパ国際音楽祭」に注目。ブリュッヘン指揮の18世紀オーケストラが「コジ・ファン・トゥッテ」を上演する(詳細は「18世紀管」の項参照)ほか、マリオ・ジョアン・ピリスのピアノ・ソロ・リサイタルもある。ただし、体調不良でキャンセルの続くブリュッヘンが予定通り登場するかどうか、不安要素はなくはない。(曽雌裕一・そしひろかず)(その他、コメントで言及できなかった音楽祭・公演も多数あります。どうぞご容赦下さい。)◎8月+夏の音楽祭(その2)の見もの・聴きものWebぶらあぼでは数ヶ月分ご覧いただけます。2014年8月の主要オペラハウス&オケ+夏の音楽祭(その2)

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