eぶらあぼ 2014.5月号
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1707月+夏の音楽祭(その1) 本号と次号では、例年通り、夏の音楽祭を中心としたコメントを掲載しますが、スペースの関係で取り上げられなかった音楽祭もたくさんあります。昨年ご紹介した Operabese というデータベースはその穴を埋めるのに役立ちますが、オペラ中心の音楽祭だけしかリンクしていない弱点があるため、本欄に広告を掲載されている旅行会社オペラツアーズ・オルフェウスの担当者のホームページ(http://orphique.clique.jp/)にあるリンク集を一度ご覧になることをお薦めします。もちろんさらに新しい音楽祭、レアな音楽祭もたくさんありますから、このリンク集を手掛かりに情報の枠を広げていただくのも楽しい作業と思います。●【7月の注目オペラ公演】 (通常公演分) アン・デア・ウィーン劇場は、2年連続でシーズン最後の7月にペーター・コンヴィチュニー演出のオペラを上演しており、今年はヴェルディの「椿姫」。この演出は、2011年にグラーツの歌劇場でプレミエになり、その後、ニュルンベルクやイングリッシュ・ナショナル・オペラで立て続けに再演されたコンヴィチュニー近年のヒット作。グラーツ初演時と同じペーターゼンの何とも魅力に満ちたヴィオレッタを聴きながら夏の初めをウィーンで満喫できればこれは実に幸せなお話…。オペラの通常公演では、そのほか、フローレスが出演するミラノ・スカラ座のロッシーニ「オリイ伯爵」、5月のパリ・オペラ座に続いてスペインのテアトロ・レアルで上演されるピナ・バウシュ演出・振付のグルック「オルフェオとエウリディーチェ」(ヘンゲルブロック指揮)などが面白い。それに加えて、シーズン最後の新演出に、よりにもよってワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」をもってきたシュトゥットガルト歌劇場のプランニングもなかなか凄い。カンブルランの指揮と、ヴィーラー/モラビト・コンビの演出がどんな世界を描いてゆくのか。●【7月の注目オーケストラ公演】(通常公演分) 今年の7月に関しては、本文で取り上げた範囲のオーケストラ公演に限れば、それほど驚くような注目公演は見当たらない。敢えて挙げれば、チョン・ミョンフンがシュターツカペレ・ドレスデンで演奏するマーラーの「復活」、ケント・ナガノがケルンWDR響で振るブルックナーの交響曲第9番といったところだろうか。この2人の指揮者には、強烈なファンもいれば、ほとんど何の関心もないという人たちもいる。好き嫌いの分かれる指揮者なのかもしれないが、どちらの指揮者も飛びぬけて美しい響きの音楽を聴かせてくれることがままあるので、食わず嫌いというのではいささか惜しい気がする。●【夏の音楽祭】(7月分)〔Ⅰ〕オーストリア 湖上オペラが有名な「ブレゲンツ音楽祭」だが、毎年テーマをもって現代作品を積極的に取り上げていることは見逃せない。今年は、fp.グルーバーがテーマ作曲家となっており、「ウィーンの森の物語」なる、いたずらパロディとも思えるような新作オペラまで上演される。fp.グルーバーは現代作曲家(でもあり自ら歌うシャンソニエでもある)とはいえ、聴いているのが耐えられなくなるような理解の難しい音楽表現とは一線を画し、とにかくサービス満載で聴衆を楽しませようとする工夫が実に好ましい。きっと面白い作品であるに違いない。シュティリアルテ音楽祭とザルツブルク音楽祭で、アーノンクールが手兵コンツェントゥス・ムジクスとともにモーツァルト最後の3つの交響曲を1日で演奏する。これは聴きものだ。常識を覆して最弱音で始まる40番第1楽章冒頭。その後の音楽の劇的な展開を聴くだけでもアーノンクール詣でをする意義は十分ありそうだ。〔Ⅱ〕ドイツ 夏前半のドイツの有名音楽祭である「ミュンヘン・オペラ・フェスティヴァル」だが、今年はあまり◎印を付けていない。というのも、肝心の新音楽監督キリル・ペトレンコがバイロイト音楽祭の「リング」の指揮に取られてしまい、今一つ「売り」に弱い印象をうけるためだ。その中では、常に切れ味いい音楽を提供してくれるカリニャーニのイタリア・オペラに期待感大。シュレスヴィッヒ・ホルシュタイン音楽祭で、ヘンゲルブロックがヘンデルのオラトリオ「エジプトのイスラエル人」を3回(リューベック、キール、ハンブルク。他にザルツブルク音楽祭でも公演がある)演奏してくれるのは楽しみだ。手兵のバルタザール・ノイマン・アンサンブルは、器楽演奏のレベルも高いが、合唱の美しさではさらにそれを上回っている。毎年、一部の期間しか紹介できない「ルール・ピアノ・フェスティヴァル」だが、出演ピアニストの多彩さにかけては当代随一ともいえる音楽祭。5月から始まるロングランのイベントなので、7月だけとは言わず、ぜひ5月や6月の予定もホームページでご参照いただきたい。 さて、キリル・ペトレンコが指揮者としての評価を急上昇させたという「バイロイト音楽祭」での「リング」。今年は聴衆側もさらに耳が厳しくなりそうだが、どのような音楽で答えてくれるのだろう。それとともに、昨年の上演で登場したカラシニコフ銃(もちろん実弾は入っていないが巨大な音で空砲を鳴らす)やワーグナーの台本とはまるで関係のない、つがいのワニ(!)は今年も出るのかどうか。どうでもいいことではあるが、ワーグナー・ファンにとっては、珍奇と揶揄される演出であっても、それはそれでまた目が離せない。〔Ⅲ〕スイス スイスは、チューリッヒ歌劇場にミンコフスキもクリスティも出なくなり、ややさびしい限りだが、そうした中でも、グルベローヴァを必ず登場させる(ドニゼッティ「ロベルト・デヴェリュー」)のはさすがというべきか。演出を伴わない舞台への出演が増えているグルベローヴァなので、やはり演技しながら歌っている姿が見たいという方は是非。〔Ⅳ〕イタリア イタリアでは「フィレンツェ5月音楽祭」の予定がホームページにさっぱりアップされなくなり、財政状況の厳しさを窺わせる。今年も本文から漏れてしまったが、通好みのハイセンスな音楽祭「マルティナ・フランカ音楽祭」(www.festivaldellavalleditria.it/)は、ぜひホームページでご確認いただきたい。〔Ⅴ〕フランス 「ボーヌ古楽祭」は今や古楽系随一の夏の音楽祭。今年もルセ、スピノジ、マクリーシュ、クリスティといった有名どころの指揮者たちに加えて、DQ.リーやショルといった人気カウンターテナーが色を添えている。全体を通じてすべて◎レベルの注目公演とご理解いただきたい。「エクサン・プロヴァンス音楽祭」の今年の目玉は、ミンコフスキ指揮のロッシーニ「イタリアのトルコ人」であろうか。昨年のこの音楽祭での「エレクトラ」演出が遺作のような形になってしまったパトリス・シェロー。その追悼ともいうべき演奏会がパーヴォ・ヤルヴィ指揮のパリ管で予定されているが、野次馬的に言わせていただければ、やはりここで指揮をすべきは、「エレクトラ」を振ったサロネンのような気もするのだが…。(以下次号)(曽雌裕一・そしひろかず)(その他、コメントで言及できなかった音楽祭・公演も多数ありますので、◎印を付した公演を中心に注目公演としてご覧下さい。)2014年7月の主要オペラハウス&オケ+夏の音楽祭(その1)

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