eぶらあぼ 2014.5月号
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ぴっくあっぷ156 少年期の東北の記憶や宮沢賢治の読書体験、過去を呼び覚ますメロディーの断片…冨田勲が理想郷イーハトーヴに仮託して、その人生の歩みを一幅の交響楽にまとめた。舞台を飾る大役を任された“ソリスト”は、なんとヴァーチャルシンガー初音ミク。賢治の物語が読者をいつの間にか異界に連れ去るように、この世とこの世でないものの間に、冨田は新たな表現の空間を切り拓いてみせた。雄大なオーケストラと少年たちの歌声に交じり、指揮者のタクトに合わせキュートなダンスと舌足らずな歌唱を繰り広げるミク。こんな現代日本の「幻想交響曲」を、いったいほかの誰が実現できるだろう。(江藤光紀)冨田勲:イーハトーヴ交響曲◎冨田勲:イーハトーヴ交響曲河合尚市(指揮)東京フィルハーモニー交響楽団初音ミク(ヴァーチャルシンガー)ことぶき光(エレクトロニクス)梯郁夫(パーカッション)鈴木隆太(キーボード) 他 昨年5月にカーネギーホールで行われた、レヴァイン復帰公演の熱い空気感がそのままに封入されたアルバム。歓声と割れんばかりの拍手が冒頭を飾り、レヴァインと強い絆で結ばれたメトロポリタン歌劇場管弦楽団による、しなやかで一糸乱れぬワーグナーでドラマティックに幕を開ける。ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番では、ゆったりと確かな足取りで進むどこか懐の深さを感じるオーケストラの上に、空中ではじけるキーシンの美音が輝く。CD2に収録のシューベルト「グレイト」もまた、構造美と即興性が見事なバランスで両立し、共に奏でる喜びが溢れ出す名演。(高坂はる香)ライヴ・アット・カーネギー・ホール/レヴァイン&キーシン◎ワーグナー:《ローエングリン》第1幕への前奏曲 ◎ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番 ◎シューベルト:交響曲第8番「ザ・グレイト」 他ジェイムズ・レヴァイン(指揮)エフゲニー・キーシン(ピアノ)メトロポリタン歌劇場管弦楽団 鍵盤楽器の仕組み・歴史・作品演奏への追求を続けるクラヴィーア奏者・山名敏之によるハイドンのアルバム。18世紀後半にはクラヴィコード、チェンバロ、フォルテピアノというまったく構造の異なる3種類の楽器が活躍していた。ハイドンは当時それらを使い分けているように見せながら、実はクラヴィコードという馴染み深い楽器との関係性から作曲を続けていたのかもしれない…そんな面白い見方(聴き方)を、山名が3台の楽器の演奏と充実した解説で教えてくれる。音色の違いを味わうだけの「聴き比べ」に留まらず、一歩深く鍵盤音楽に踏み込めるアルバムだ。(飯田有抄)ハイドンと18世紀を彩った鍵盤楽器たち/山名敏之ハイドン:◎カプリッチョ「豚の去勢にゃ8人がかり」(3種類の楽器で収録) ◎ソナタ変ホ長調Hob.ⅩⅥ/52 ◎ソナタハ短調Hob.ⅩⅥ/20 他山名敏之(フォルテピアノ、クラヴィコード、チェンバロ) 内藤彰&東京ニューシティ管の「ブルックナー楽譜異版シリーズ」5曲目は第7番。「川﨑高伸校訂版世界初演録音」と銘打つ。詳細はライナーに譲るとして(これが興味深い)、一聴して気付くのが基本的にインテンポを固持、楽節の終わりでも粘らない。特に第4楽章に顕著だが、パウゼを意識的に生かし、各フレーズの繋がりよりは断絶感を際立たせている(オルガンのストップ切替操作と「間」による残響効果を意識しているとの由)。また、「川﨑版」という譜面云々とは別に、ノンヴィブラートを徹底させたことによる透明かつ室内楽的な音響体が現前している。問題提起の1枚だ。(藤原 聡)ブルックナー:交響曲第7番/内藤&東京ニューシティ管◎ブルックナー:交響曲第7番(川﨑校訂版)内藤彰(指揮)東京ニューシティ管弦楽団収録:2013年9月、Bunkamuraオーチャードホール(ライヴ)日本コロムビア COXO-1074 ¥4800+税収録:2013年5月、カーネギー・ホール(ライヴ)ユニバーサルミュージックUCCG-1656/7(2枚組) ¥3500+税収録:2012年3月、泉佐野市/泉の森ホールコジマ録音ALCD-9138 ¥2800+税収録:2012年11月、東京芸術劇場(ライヴ)DELTA CLASSICSDCCA-0074 ¥2500+税Blu-rayCDCDCD

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