eぶらあぼ 2014.5月号
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152はそれを自らとりやめて講義を続行する熱の入りよう。そこでは彼の十八番のひとつ、マーラーに関する示唆深い解釈(「ベートーヴェンは人生の不安や恐怖を作曲という行為によって克服しました。それに対し、マーラーは常に作品とともに悩み続けた人。だから、彼の作品は作曲当時の人々にとって大げさに聴こえて評価されなかったし、第2次世界大戦を経験したことで、聴き手は彼の不安や恐怖を初めて理解できるようになったと思うのです」など)も数多く聞くことができた。 講義の終盤では、学生からの質問にインバルが答えるディスカッション・タイムも。近年どんどん高くなる傾向にあるチューニングの音程について、「あまり高くなり過ぎると歌手が困る」。コンサートマスターの役割について、ボストン響の名コンマスの言葉を引用しながら「指揮者の合図の2秒前に想定して動き出すのが理想」などと語る姿を、学生たちは熱心に聞き入っていた。 そして最後は、学生からの熱心な要請に応え、インバルと東大オケの共演が実現。演目は冒頭と同じ「アイネ・クライネ〜」の第1楽章だったが、アンサンブルが驚くほど引き締まり、爽快さと喜びに満ちた秀演を聴かせてくれた。学生たちは、マエストロの棒の力に改めて感銘を受けながら、第15回都響マエストロ・ビジットは終了した。東京都交響楽団https://www.tmso.or.jp■小澤征爾が5年ぶりに「音楽塾」のオペラ を指揮 小澤征爾が5年ぶりに『小澤征爾音楽塾』でオペラの指揮台に立った。3月16日のよこすか芸術劇場を皮切りに4公演を指揮した。 『小澤征爾音楽塾』は、小澤が若手音楽家を実践的に育成することを目的に始めたもので、オペラ公演を活動の中心に置き、これまでに《フィガロの結婚》、《ドン・ジョヴァンニ》、《こうもり》、《ラ・ボエーム》などを上演してきた。ここ数年は、小澤の体調不良により、公演がキャンセルされることもあったが、2014年には再び《フィガロの結婚》が取り上げられた。今回の上演では、小澤の体調に配慮してチェンバロ奏者でもあるテッド・テイラーと指揮を交互に行う2人体制をとりながらも、小澤は4時間超に及ぶ公演全体の半分近くを指揮、全身を使った力みなぎる演奏で聴衆を魅了した。小澤征爾音楽塾http://www.ongaku-juku.com■第45回「サントリー音楽賞」に鈴木雅明と バッハ・コレギウム・ジャパン 鈴木雅明とバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)が第45回(2013年度)の「サントリー音楽賞」を受賞した。「サントリー音楽賞」(旧名・鳥井音楽賞)は、公益財団法人サントリー芸術財団が1969年の設立以来、わが国における洋楽の振興を目的として、毎年、その前年度においてわが国の洋楽文化の発展にもっとも顕著な功績のあった個人または団体を顕彰するもの。《贈賞理由》 鈴木雅明と鈴木が自ら創設したBCJは、特に名前を冠したJ.S.バッハをはじめとするバロック作品において、テクストと音楽の両面から深く掘り下げた演奏により世界的に高い評価を得ている。また、鈴木&BCJはすでに国内外の古楽音楽祭で定番の顔ぶれとなっており、日本人演奏家の団体が、古典派以前の作品演奏に関してこのような評価を得たことは過去に例がない。鈴木は2012年にJ.S.バッハゆかりのライプツィヒから栄誉あるバッハ・メダルを授与されたことも、鈴木&BCJの優れた評価を裏付けている。サントリー音楽賞http://www.suntory.co.jp/sfa/music/prize■第13回佐治敬三賞が決定 第13回(2013年度)佐治敬三賞が「東京現音計画♯01〜イタリア特集Ⅰ:コンポーザーズセレクション1・杉山洋一」と「東方綺譚 “Nouvelles Orientales de Marguerite Yourcenar”」に決定した。 佐治敬三賞は、わが国で実施された音楽を主体とする公演の中から、チャレンジ精神に満ちた企画でかつ公演成果の水準の高いすぐれた公演に贈られるもので、2001年度(平成13年度)公益財団法人サントリー芸術財団(代表理事・堤剛、鳥井信吾)により制定された。《贈賞理由》◎「東京現音計画」は、日本の現代音楽の第一線で活躍公演を前に最終総稽古で指揮する小澤征爾、右にテッド・テイラー(3/14・よこすか芸術劇場)Photo:M.Terashi/TokyoMDE鈴木雅明©Marco Borggreve

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