eぶらあぼ2014.4月号
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No.27 駿河よい国、美味い国駿河よい国茶の香がにほうていつも日和の沖は日和の大漁ぶねちゃっきり、ちゃっきりちゃっきりよきゃぁるが啼くから雨づらよ作詞:北原白秋 作曲:町田嘉章<ちゃっきりぶし>より 2011年に静岡市美術館で「レオナルド・ダ・ヴィンチの音楽」と称したミュージアム・コンサートに出演して以来であろうか、クローズドのコンサートでの演奏、そして静岡音楽館AOIでのインタビューを受けるために静岡を再訪した。コンサートの主催者は、食べ物で釣られる私の習性をよくご存知であったようで、現地入りした本番前日に食事をご馳走しよう、とおっしゃる。当然これを断る理由など何もないので、ウキウキと夜の繁華街へと共に繰り出した。お目当てのビルに到着し、2階へ上がるとそこがゴール…のはずだったが、そこはどう見てもただのスナックにしか見えない。内心かなり戸惑いながらも入店する。 銘々が飲み物を注文し、翌日の本番成功を祈って乾杯をすると、さっそく料理が運ばれてくる。ベビーリーフとスライスしたタマネギ、ニンジン、そしてトマトの、何の変哲もないサラダであるが、それを覆うようにたっぷりとトッピングされているのは桜エビではないか!聞けば今朝揚がったばかりの桜エビを焼いてトッピングしていると言う。先ほどまでの消沈ぶりはどこへやら、ガバッと取り皿に盛りつけ、最高音を出すがごとき大口にサラダを放り込む。咀嚼する度にシャキシャキの野菜の中から、紛うこと無き桜エビの香りと甘みが、オーケストラの大音響の中から聞こえるオーボエ・ソロのように浮かび上がってくる。駿河湾の恵みに感謝を捧げ、カリカリ、パリパリとほおばっているところに次の逸品が運ばれてくる。太さは指4本分、切り身の長さ30センチはあろうかという立派な太刀魚。こちらも今朝入荷したばかりで身がピカピカと光り輝く。レモンを添えたシンプルな塩焼きは、この食べ方こそが至高であると言わんばかりの説得力で口中をくすぐる。基本は淡白なのに程よく脂がのっている、このバランスこそが太刀魚の真骨頂であろう。駿河湾の恵みはまだまだ続く。お次は生マグロの刺身、そして生シラスである。冷凍していないマグロはねっとりとした舌触りで、上質の魚脂を最高の状態で味わえる。生シラスは、以前関東の某所で食した際、その臭みに閉口したことがあったのだが、こちらのシラスは添えられた薬味のショウガも必要ないほど臭みがない。つるっとした食感、噛む度に感じる程よい苦みがたまらない。そして満を持して登場したのは桜エビのかき揚げ。塩をぱらりと振っただけのそれは、この時点でもう十分胃袋が満たされていたにも関わらず、どんなに食べても後を引く。加熱した甲殻類のうま味というものは依存性でもあるのかと疑いたくなるほどだ。 本年8月23日には親子向けコンサートのため、再び静岡音楽館AOIを訪れる予定であるが、夏にも駿河湾の幸は堪能できるのだろうか。楽しみである♪千葉大学卒業。同学大学院修了。東京芸術大学声楽科卒業。1999年よりイタリア国内外劇場でのオペラ、演奏会に出演。放送大学、学習院生涯学習センター講師。在日本フェッラーラ・ルネサンス文化大使。バル・ダンツァ文化協会創設会員。日本演奏連盟、二期会会員。「まいにちイタリア語」(NHK出版)、「教育音楽」(音楽之友社)に連載中。著作「イタリア貴族養成講座」(集英社)、CD「イタリア古典歌曲」(キングインターナショナル)「シレーヌたちのハーモニー」(Tactus)平成24年度(第63回)芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。185

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