eぶらあぼ 2014.3月号
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48 「明治以来、邦楽と西洋音楽の様々なコラボレーションが行われてきたが、新たな実体を持つ和と洋の合一は、簡単に実現できなかった」。1991年に第1回芥川作曲賞を受賞し、世界各国で作品が演奏されている作曲家の高橋裕は言う。今回は、そんな高橋が3つの自作を自ら指揮し、オーケストラ・アンサンブル金沢と石川高(笙)ら邦楽師との共演から、新たなる響きを紡ぎ出そうと試みる野心的なステージだ。笙の響きへオーケストラの管楽器が重なっていく「風籟」(1992)、ルーツを同じくする琵琶とヴィオラの位相の違いから融和歴史までが共鳴する“想”の音和と洋の想を聴くまでを描く「二天の風」(2013)、無駄を削ぎ落とす能と重層的なオーケストラを対峙させる「葵上」(2006)、多様な側面から和洋の新たな響きを提示する作品は、いずれもアンサンブル金沢からの委嘱作。そして、公演が行われる文京区は、加賀前田藩が江戸藩邸上屋敷を構えた地でもある。「由緒正しき縁の地での演奏会は、大きな意味を持つ」と高橋。歴史までが共鳴する、貴重な経験ができそうだ。文:笹田和人★3月26日(水)・文京シビックホール ●発売中問 東京コンサーツ03-3226-9755 http://www.tokyo-concerts.co.jp高橋 裕石川 高 ドイツ、オーストリアでの7年間にわたる留学生活を経て、昨年活動拠点を日本に戻し、新たなスタートを切ったピアニストの佐藤卓史。この春から、彼が特別な愛着を持つというシューベルトのピアノ作品(独奏曲、連弾曲、ピアノを含む室内楽曲)を網羅する演奏会シリーズを開始する。 佐藤はハノーファー留学中の2007年にシューベルト国際ピアノコンクールで優勝。これをきっかけにシューベルトの演奏機会は増え、またシューベルト弾きとしてヨーロッパで認められるようになった。誠実に音楽と向き合う姿シューベルトの新たな魅力を描き出す佐藤卓史 シューベルトツィクルス ピアノ曲全曲演奏会 第1回 「幻想曲 –Fantasien–」勢がひしひしと伝わる、考え抜かれた演奏。近年はそこに自由さとやわらかさが加わり、ますます光を放つようになった。 ライフワークとして取り組みたいというシューベルト・ツィクルスの初回は、演奏機会の少ない初期の作品に加え、「グラーツ幻想曲」や「さすらい人幻想曲」などを取り上げる。知的で心に静かに訴えかける佐藤のピアノが、作品の新たな魅力を描き出す。大いに期待できそう。文:高坂はる香★4月2日(水)・東京文化会館(小) ●発売中問 アスペン03-5467-0081 http://www.aspen.jp ピアニストの白石光隆が、春本番を待つ3月初旬の東京でコンサートを行う。その名も「春をよぶおしゃべりコンサート」。好評の白石自身によるトークを交えながらの演奏会。ブラームス「間奏曲Op.117-2」やシューマン=リスト「献呈」、メンデルスゾーン「春の歌」や「ロンドカプリチオーソ」には、彼ならではの温かい音色がよく似合うだろう。そしてショパンからは、「夜想曲第3番」と「スケルツォ第2番」が演奏される。持ち前のどこまでも自然でなめらかな歌い回しが、作品に豊かな息吹を与える。 東京芸大大学院修了後、ジュリアー音楽で春を感じる白石光隆(ピアノ) 春をよぶおしゃべりコンサートド音楽院で学んだ白石。卓越したリズム感と表現力を持ち、現代作品やジャズにも取り組むなど意欲的な活動で知られている。今回も、「おぼろ月夜」、「花」、「早春賦」といった日本歌曲のメロディをモチーフにした長生淳の委嘱作品「春よび歌」の初演を行う。 生命力あふれる春らしい作品が揃い、曲目を見ているだけで心が踊る。春の気配を感じる日曜日の午後になりそうだ。文:高坂はる香★3月9日(日)・サントリーホール ブルーローズ(小) ●発売中問 プロアルテムジケ03-3943-6677 http://www.proarte.co.jpPhoto:岩切 等

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