eぶらあぼ 2014.2月号
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No.25 乾杯!乾杯!乾杯!ワインの燃え上がる流れの中トララララララ、ラ、ラ♪素晴らしい生命がきらめくトララララララ、ラ、ラ♪王や皇帝は月桂冠を愛するがそれよりさらに甘露なワインを愛するのだ乾杯、乾杯!全てのワインの王を皆で讃えようヨハン・シュトラウスⅡ〈シャンパンの歌〉喜歌劇《こうもり》より 本連載では、筆者自身が演奏会などのおりにしたためた食事を紹介することが多いため、基本的には毎度私事をつづっていることになるが、今回は、私事のなかの私事、キング・オヴ・私事でこの紙幅を埋めることになってしまった。  実は先日、東京・丸の内にある「コットンクラブ」に於いて筆者は結婚披露宴を行った。コットンクラブはもともと1920年代のニューヨークで黄金期を迎えたナイトクラブとしてその名を知られている。新郎新婦がともに職業音楽家であるため、親族を除く列席者のほとんどが音楽関係者であり、通常の披露宴で行われる友人有志の余興も、もはや「余興」と呼べるレヴェルではなく、プロフェッショナルによる本気の演奏が展開されることが容易に予想されたため、最初からプロ仕様の機材と専門スタッフを備えた会場を選んだ次第である。 音響設備が充実しているのは当然だが、コットンクラブは料理も美味。アミューズはタラバ蟹とキャビアのコンソメジュレ寄せ、前菜はオマール海老と冬野菜のサラダをキャロットのヴィネグレットで、温前菜はフォアグラともち豚のショーソンを洋梨のコンポートと共に、スープはビーツのポタージュ、魚料理は天然真鯛のポワレ、フヌイユのブレゼ添え、蛤とポロ葱のソース、メインは黒毛和牛フィレ肉のロティ、マッシュルームのリゾット添え赤ワインソース、デザートは栗とドライフルーツのタルト、リンゴとキャラメルのアイス添え…と、文字にしただけでも気持ちが高揚するが、披露宴中に新郎新婦がこれらのご馳走を胃袋に収める時間などあるはずもない。出席してくださった知人友人たちと談笑し、記念撮影を行い、さらには新郎新婦自身がステージに上がりガンガン演奏していたのだから、気付けば宴はめでたくお開きとなっていた。 楽屋、もとい新郎新婦控え室に戻ると、ホッとしたこともあり、途端に空腹を覚えた。食べ損なったご馳走を思い出し、ちょっぴり切なくなっていたところに、なんとメインとなった黒毛和牛のロティが熱々で運ばれてきたではないか! シェフとスタッフの心遣いに感激しつつ牛肉にナイフを入れると、切り分ける感触もほとんどないまま、ホロリと崩れ、口に運ぶとまるで筋繊維など存在しないかのように溶けてゆく。赤ワインのソースの甘みと酸味がフィレに閉じ込められた肉汁と相まって舌の上でクルクルと味の大円舞曲を奏で、心もウキウキと踊り出す。そういえば、自分の結婚式でなくても、出席する度に歌っていたため、披露宴の料理を落ち着いて頂いたことなどなかったかもしれない。次回お呼ばれの機会があれば、食事優先で臨むとしよう。千葉大学卒業。同学大学院修了。東京芸術大学声楽科卒業。1999年よりイタリア国内外劇場でのオペラ、演奏会に出演。放送大学、学習院生涯学習センター講師。在日本フェッラーラ・ルネサンス文化大使。バル・ダンツァ文化協会創設会員。日本演奏連盟、二期会会員。「まいにちイタリア語」(NHK出版)、「教育音楽」(音楽之友社)に連載中。著作「イタリア貴族養成講座」(集英社)、CD「イタリア古典歌曲」(キングインターナショナル)「シレーヌたちのハーモニー」(Tactus)平成24年度(第63回)芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。209

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