eぶらあぼ 2014.1月号
152/181

157 若手人気チェリストの水野由紀が、昨年のデビュー盤に続いて発表した待望のセカンド・アルバム。冒頭の「アルペジオーネ」は、音色やテンポの微細な変化に細心の注意が払われており、作品への深い共感を窺わせる。併録のショパン、ポッパー、ウェーバーなども、一貫して押しつけや強引さは皆無。瑞々しく誠実な感性で、作品の華々しさよりも陰影や憂いの部分を丹念に描出していく。アルバムのラストを飾るのは、フォーレ「夢のあとに」。干野宜大のピアノが淡々と刻む8分音符の上で、彼女のチェロは3連符の多用された名旋律を実に優雅な荘重さでもって歌い上げている。(渡辺謙太郎)シューベルト:アルペジオーネ・ソナタ 他/水野由紀◎シューベルト:アルペジオーネ・ソナタ ◎ショパン:序奏と華麗なるポロネーズ ◎ポッパー:ハンガリー狂詩曲 ◎ウェーバー:アダージョとロンド ◎フォーレ:夢のあとに水野由紀(チェロ)干野宜大(ピアノ) リストの名編曲で知られるベートーヴェンの交響曲のピアノ版。前作の第3番「英雄」から6年ぶりに発表した当盤には、大曲・第9番「合唱付」が収録されている。全4楽章を通して見通しがよく、テンポ設定は緩やか。知的で丁寧な音楽作りが印象的な快演だ。第3楽章の滑らかで息の長い旋律の歌い方や、原曲では4人の独唱と合唱が加わる第4楽章の音のバランスなど、管弦楽の大音量だと圧倒されて聴こえてこない“芯”や“骨格”を味わえるのが嬉しい。古今の名盤が並ぶ原曲の「第九」と聴き比べると、一服の清涼剤のような清々しさを与えてくれることだろう。(渡辺謙太郎)ベートーヴェン(リスト編曲):交響曲第9番/後藤泉◎ベートーヴェン(リスト編曲):交響曲第9番後藤泉(ピアノ) 新国立劇場における「トーキョー・リング」シリーズの好演で一躍名を馳せたソプラノによる待望のワーグナー・アルバム。ドラマティックだが過度な押しつけがなくヒステリック系な叫びとも無縁の声が、ワーグナー・オペラのヒロインたちの一途な感情をピュアに紡いでいく。ヴェーゼンドンク歌曲集ばかりか、《ファウスト》劇用の「グレートヒェンのメロドラマ」(語り)や、パリでの成功を夢みて書いたフランス語歌曲、ドレスデン宮廷楽長時代、ザクセン国王を迎えるセレモニーのための合唱曲などが採りあげられているのも嬉しい。まだ観ぬイゾルデ役にも期待が高まる。(東端哲也)ワーグナー歌曲とアリア集/蔵野蘭子ワーグナー:◎ゼンタのバラード〜《さまよえるオランダ人》より ◎ゲーテ「ファウスト」のための7つの作曲より第6曲〈糸を紡ぐグレートヒェン〉・第7曲〈グレートヒェンのメロドラマ〉 ◎眠れ、わが子よ ◎期待 ◎二人の擲弾兵 ◎マティルデ・ヴェーゼンドンクによる5つの詩 ◎イゾルデの愛の死〜《トリスタンとイゾルデ》より 他蔵野蘭子(ソプラノ)内山亜希(ピアノ) 音と音との間合いを愛おしむように奏でるザラフィアンツのピアノが、シューマンの夢見るような世界観を温かく包み込んだ。新譜はシューマンの大作「幻想曲ハ長調」と叙情的な組曲「森の情景」という組み合わせ。ザラフィアンツの手にかかれば、シューマンの仕組んだ複雑な声部の戯れも、聴き手の混乱を招くような音の塊とはならない。充分な音の伸びと明快なコントラストが、幻想的世界の音のレイヤーを丁寧に伝える。文学的な題材となる「森」の神秘と深い闇も、詩的で柔らかなタッチで織りなされる。寒い冬の日、温かい室内でゆったりと聴きたい一枚。(飯田有抄)シューマン:幻想曲,森の情景/ザラフィアンツシューマン:◎幻想曲 ◎森の情景エフゲニー・ザラフィアンツ(ピアノ)収録:2013年9月、埼玉、三芳町文化会館(コピスみよし)オクタヴィア・レコード OVCL-00526 ¥3150収録:2013年9月、ヨコスカ・ベイサイド・ポケットマイスター・ミュージックMM-2169 ¥2957収録:2013年7月、三鷹市芸術文化センターナミ・レコード WWCC-7737 ¥2625収録:2012年11月、五反田文化センターコジマ録音 ALCD-7180 ¥2940CDCDCDCD

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です