eぶらあぼ 2014.1月号
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この人いちおし152【CD】『子象ババールの物語/子供の領分德川眞弓(ピアノ)+林望+C.W.ニコル』德川眞弓(ピアノ) 林望(朗読/子象ババールの物語) C.W.ニコル(朗読/子供の領分)◎プーランク/ブリュノフ原作:音楽物語「子象ババールの物語」(林望:訳) ◎マスカーニ(深見麻悠子編):歌劇《カヴァレリア・ルスティカーナ》より「間奏曲」 ◎ドビュッシー:「子供の領分」(谷川俊太郎:詩) ◎グルダ:アリアディスク クラシカ ジャパン DCJA-21024 ¥2625 德川眞弓(ピアノ)Mayumi Tokugawa言葉と音楽の美しきコラボレーション 2012年と13年、ピアニストの德川眞弓はきわめて特色のあるリサイタルを東京で行い、その成果が1枚のアルバムとなってリリースされた。だが、単にリサイタル演目をパッケージ化したのではない。德川の共鳴したある思いが、CD『子象ババールの物語/子供の領分 德川眞弓(ピアノ)+林望+C.W.ニコル』という形になって羽ばたいたのだ。 ドビュッシーの生誕150周年であった2012年のリサイタルでは、組曲「子供の領分」を取り上げた。以前から子供のためのコンサートを開き、朗読と音楽のコラボレーションの力を実感していた德川は、この曲に寄せる詩を谷川俊太郎氏に依頼した。 「谷川さんのご自宅に伺うと、キーボードにはバルトークの『ミクロコスモス』の楽譜が置いてありました。『これを弾くと気持ちがいいんだ』とおっしゃっていましたね。『子供の領分』についてもよくご存知で、出来上がった詩には遊び心があり、内省的なところもあり、作品のイメージを一段と広げてくれるようなものでした。その詩を温かいお声で朗読して下さったのが作家のC.W.ニコルさん。日本に暮らして50年になるニコルさんは、私財を投じて日本の森林再生にも尽力されています。ある種の子供心といいますか、真っ直ぐな気持を大切になさっている方だからこそ、詩と音楽の世界にぐっと惹き込んでくれる魅力的な朗読を聴かせてくださいました」 ニコルは、東日本大震災で甚大な被害の出た宮城県東松島市で、子供たちが自然の中で豊かに学べる「森の学校」づくりを進めている。そのことを知った德川は、急遽リサイタルをチャリティーに変更。そしてプーランク没後50周年にあたる2013年のリサイタルでは、「子象ババールの物語」を取り上げ、このコンサートも学校作りのためのチャリティーとした。 「私欲を捨て、子供たちのために活動するニコルさんに心を動かされました。ドビュッシーが愛娘に注いだまなざし、プーランクが甥っ子たちに果たした約束、そんな2つの音楽作品を携えて、私も子供たちの未来につながることをしたい、と。今回のCDは、コンサートに来られなかった方たちへも活動の輪を広げたいと思い、定価の一割を学校作りの資金にさせていただくことにしています。音楽と言葉の美しい世界を堪能していただきながら、子供たちの未来に思いを馳せていただけたらと思います」 「ババール」の朗読を担当したのは、“リンボウ先生”の愛称でも親しまれる作家・国文学者の林望だ。 「林さんは歌曲の作詞もなさいますし、ご自身もバリトンの美声で歌われます。朗読されたテキストは、日本で長年読み継がれてきた翻訳ではなく、林さん自らが書き下ろされた新訳です。『マダム』、『ハグして』など外国の雰囲気が漂う言葉が加わって、作品のもつお洒落な響きが活かされています。原作が生まれたのは1930年代。ストーリーには植民地主義的な性質も含まれていますが、林さんはそうした香りがあまり前面にでないように翻訳されました。プーランクは楽譜に言葉を詳細に書き込んでいますが、母象が銃で打たれるシーンなどは、言葉と音型のつながりがうまく表現できるように私たちで工夫をしています。言葉と音楽の相乗効果を楽しんでほしいですね」 CDにはマスカーニの「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲(深見麻悠子編)、グルダの「アリア」(一部德川によるアレンジ)も収録。包み込むような優しさと朗らかさに満ちた德川の音色に耳を傾けたい。子供も大人も一緒に楽しめる美しいアルバムだ。取材・文:飯田有抄左より:林望、德川眞弓、C.W.ニコル

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