eぶらあぼ 2013.12月号
200/207

No.23 岡山瀬戸内ごはん桃太郎さん、桃太郎さんお腰につけたきびだんごひとつわたしにくださいなやりましょう、やりましょうこれから鬼の征伐について行くならやりましょう作詞:不詳 作曲:岡野貞一<桃太郎>より 1年ぶりに岡山へ伺った。小学校における2件のアウトリーチ、そしてジャズ・クラブでのライヴのためである。今回のオファーをくれたのは、ピアノ、尺八、サックス、津軽三味線、パーカッションなどなど、和洋取り混ぜた様々な楽器を駆使し、色とりどりの鮮やかなサウンドを作り出す作・編曲家のMAKI氏。彼女はピアニストとしても自身の率いる変幻自在のユニット code“M”などで活躍している。code“M”は今年、瀬戸内国際芸術祭2013に招聘されていたため、その前日程を使って共演させて頂いた次第である。アウトリーチは瀬戸内海に面した穏やかな空気の流れる玉野市で、ライヴは岡山市内のカフェSOHOで行われた。メンバーはMAKI氏、尺八世界チャンピオンの岩田卓也氏、世界中のフレームドラムを驚異のテクニックで操るタンバリン奏者の田島隆氏、筆者であった。 そして、昼間は小学生のハイテンションなエネルギーに、夜は満員のお客様の熱狂に全力で応えた結果、ライヴ直前にお弁当を食べたのにも関わらず、激しい空腹で倒れそうになった。さっそく打ち上げへと街に繰り出す。到着した店は岡山駅近く西川緑道沿いに位置するオーガニック和食居酒屋の「壷川」。こだわりを感じる内装に、これは料理もかなり期待できそうだと胃袋が叫ぶ。 最初に頂いたのはチーズの西京味噌漬け。小鉢に盛られた一片を口に入れると、ねっとりとした脂肪分の甘みと味噌の風味、そして乳酸菌&麹の発酵コンビが作り出す酸味とうま味の見事な調和に、ライヴの熱狂にも似た高揚感が身体中を駆け巡る。次に登場した造りの盛り合わせにはサワラが鎮座ましましているではないか! 岡山ではサワラを刺身で食すと話には聞いていたが、東京出身の筆者にとってはこれが初体験である。新鮮な生のサワラはふちがほんのりピンクがかった透明感のある白だ。脂のノリも程よくクセのない上品な味わいである。西京焼のイメージしかなかったサワラの新たな味わいを発見した喜びは、なじみの共演者がある時思いもかけなかった素敵な即興演奏を仕掛けてきた時の驚きにも通じる。数あるメニューの中からどうしても食しておきたいと注文したのは「本日の気まぐれ汁」。この日は秋の味覚の代表である様々なきのこをたっぷりと使ったきのこ汁であった。運ばれてくるそばから香る出汁と味噌の香りに、これから味わうであろううま味の競演に舌が準備を始める。ひとくち含むと、その出汁の素晴らしさに、口はハミングの状態を保ったまま驚嘆の叫びをあげる。どこまでも丁寧に仕事をした味だ。醤油味の香ばしい焼きおにぎりをほおばりながら頂くきのこ汁に、日本に生まれて本当によかった、と改めて思うのであった。千葉大学卒業。同学大学院修了。東京芸術大学声楽科卒業。1999年よりイタリア国内外劇場でのオペラ、演奏会に出演。放送大学、学習院生涯学習センター講師。在日本フェッラーラ・ルネサンス文化大使。バル・ダンツァ文化協会創設会員。日本演奏連盟、二期会会員。「まいにちイタリア語」(NHK出版)、「教育音楽」(音楽之友社)に連載中。著作「イタリア貴族養成講座」(集英社)、CD「イタリア古典歌曲」(キングインターナショナル)「シレーヌたちのハーモニー」(Tactus)平成24年度(第63回)芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。209

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です