eぶらあぼ 2013.11月号
174/209

181 当たり役のつうを歌った伊藤京子の《夕鶴》が復刻された。欧米のドラマティック・ソプラノの量感こそないが、ほっそりよく通る歌声がチャーミングで役どころにぴったり。アリアは美しくまとめつつも、ここぞというところでは情念を燃え上がらせる押しの強さもみせる。若杉はワーグナーを思わせるどっしりと構えたテンポで、読響をたっぷりとふくよかに鳴らしている。残響がかなり長く、それが醸し出す距離感や効果には好みが分かれるだろうが、オープンからまだ日の浅かった日本ビクター青山スタジオでのセッション録音は苦心の上に作りこまれており、往時の記録としても貴重である。(江藤光紀)團伊玖磨:オペラ《夕鶴》團伊玖磨:オペラ《夕鶴》(全曲)若杉弘(指揮)読売日本交響楽団伊藤京子(つう)丹羽勝海(与ひょう) 他 ライスターのラスト・アルバムとなった本作はオペラの編曲作品を収録。そのクラリネットによる“歌”は常にしっとりとした美音によって歌われつつも、ただ美しいだけではなく何とも言えない陰影と深み、そして絶妙なニュアンスに富んでいて絶品だ。特に「冷たい手を」や「タイスの瞑想曲」は、その歌心を堪能するには最高の作品だろう。ライスターの奏でる音は昔から唯一無二で、エーラー式の楽器を用いつつも他の独墺系の奏者とは一味違っていた。本CDではこのライスター独自の音に更に磨きがかかっているように思える。聴いていて思わずうっとりしてしまう。(藤原 聡)ベルカント〜クラリネットによるオペラ名アリア集/カール・ライスター◎ベルクソン:《モンフォールのルイーザ》より情景とアリア ◎ロッシーニ:《セビリャの理髪師》よりファンタジー・カンタービレ ◎プッチーニ:《ボエーム》より「冷たい手を」 ◎マスネ:タイスの瞑想曲 ◎ダーヴィト:序奏、主題と変奏曲 他カール・ライスター(クラリネット)フェレンツ・ボーグナー(ピアノ) デビュー盤を2枚同時リリースしたことでも話題になった若手フルート奏者、上野由恵の第3弾。ドップラー、ドヴォルザーク、エネスコ、バルトークの東欧作品を集めた創意溢れる1枚だ。冒頭の名曲、ドップラー「ハンガリー田園幻想曲」では、哀愁的な歌心と精確無比な技巧がみごとに両立。続くドヴォルザークの独特のリズムや、エネスコの繊細な色彩感、そして現代性と民謡性が複雑に絡み合ったバルトークも一貫して端正に歌い上げている。ともすると濃密さや翳りの部分が強調されてしまいそうな“東欧の歌”。それを終始上品でしなやかに歌い切った彼女のセンスが光る。(渡辺謙太郎)東欧の歌〜ハンガリー田園幻想曲/上野由恵◎ドップラー:ハンガリー田園幻想曲 ◎ドヴォルザーク:ソナチネ ◎エネスコ:カンタービレとプレスト ◎バルトーク:ハンガリー農民組曲 ◎ドップラー:ヴァラキアの歌上野由恵(フルート)石橋尚子(ピアノ) ゆったりめのテンポに、豊かに波打つヴィブラート。もしかすると、昨今のバロック演奏の潮流には抗っているのだろうか? しかし、胸に染み入る滋味と、忘れ得ぬ旧友に再会したような気持ちは、一体どこからやって来るのだろう。楽譜の隅々まで表現し尽くそうとする、重鎮・浦川の作品への一貫した姿勢なのか。または、まるで微笑みかけてくるような、実力派・河野の温かな音色なのか。それとも、慎ましやかさと大胆さを兼ね備えた名手・粟田口の好演のせいか。聴き始めると、離れ難い思いに捉われる向きも多いはず。古楽全盛の今だからこそ、存在意義の大きい1枚かもしれない。(寺西 肇)バロック室内楽集〜J.S.バッハ&ヘンデル・ソナタ集J.S.バッハ:◎ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ第4番BWV1017 ◎チェロとチェンバロのためのソナタ第2番BWV1028 ヘンデル:◎ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタOp.1-10 ◎同Op.1-15 ◎同Op.1-3浦川宜也(ヴァイオリン)河野文昭(チェロ)粟田口節子(チェンバロ)収録:1970年5月、東京、ビクター・スタジオカメラータ・トウキョウCMCD-20202〜3(2枚組) ¥4200収録:2008年2月、オーストリア、コンセルヴァトリウム・フェルトキルヒカメラータ・トウキョウ CMCD-28230 ¥2940収録:2013年5月、横浜、かながわアートホールオクタヴィア・レコードOVCC-00102 ¥3000収録:2013年3月、サン・エール相模原ナミ・レコードWWCC-7733 ¥2625CDCDCDCD

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です