eぶらあぼ 2013.10月号
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37若い才能が開花するスペシャル・デュオ誕生! 2012年のエリザベート王妃国際コンクール・ヴァイオリン部門第2位など、内外の著名なコンクールで次々に上位入賞を果たしている成田達輝。そして、10年のジュネーヴ国際コンクール・ピアノ部門で日本人初優勝を飾った萩原麻未。この注目の若手2人によるスペシャル・デュオが実現する。 彼らを繋ぐキーワードは「フランス」。ともに名門・パリ国立高等音楽院で学び、現在もパリを拠点に活躍している。萩原によると、2人の出会いは11年の1月とのこと。「パリの日本大使館の晩餐会で会ったのが最初。その後、パリ音楽院の練習室で初めて合わせたのがフランクのソナタでした。でも、その時は成田さんのヴァイオリンの弦がすぐに切れてしまい、替えの弦がなかったので、全部通して弾くことができませんでした。楽器屋さんに弦を一緒に買いに行ったのがいい思い出です(笑)」 室内楽の共演相手として、お互いをどう思っているかを尋ねたところ、「萩原さんがジュネーヴ国際の優勝時に弾いたラヴェルの協奏曲にとても感激し、以来ずっと尊敬していました。また、室内楽奏者としても、彼女の友人でもあるチェリスト、カーリン・バーテルスとのデュオをはじめ、経験が豊富なので心強いです」と成田。それを受けて萩原も、「成田さんのエリザベート国際での演奏をインターネットで見ていたので、私もずっと凄いなと思っていました。それに、彼が現在師事するジャン=ジャック・カントロフさん(ヴァイオリン)と、私の恩師ジャック・ルヴィエ先生(ピアノ)。2人はデュオでCDを沢山出しているので、私たちもその志を受け継いで、自然に合わせられる部分が多いのかもしれませんね」 そうなれば今回のプログラムは、当然オール・フランス音楽…と思いきや、ベートーヴェンのソナタ第5番「春」でスタートし、ストラヴィンスキーの協奏的二重奏曲が続く。そこには作品構成に着目した成田の選曲意図が込められている。「前半のベートーヴェンとストラヴィンスキーは、組み合わせて弾くと相性が良いと思って選びました。どちらも生涯“革新”を追求し続けた作曲家ですが、それは古典の素養があってこそなせる業。ベートーヴェンの均整あふれる旋律美が魅力の『春』と、古典的な5楽章構成で編まれたストラヴィンスキーの二重奏曲は、どちらもその証しと言えるでしょう。その意味で萩原さんとの密接な信頼関係が重要になってくるのが、両曲の難しさ。本番前の練習時間がパリでも日本でもたっぷりあるので、じっくり取り組んでいきたいと思います」 プログラム後半の最後を飾るのは、グリーグのソナタ第3番。彼が残した3つのソナタの中で最も人気が高く、作曲家本人も大変気に入っていたと言われる傑作だ。ピアノが活躍する部分も多いということで、ずばり、魅力や聴きどころを萩原に質問。「孤高の美を感動的に描いた第2楽章は、抒情的なピアノ・ソロで開始。情熱的な第3楽章の終盤は、ピアノが連続した音符を一貫して弾き続けてカンタービレに拍車をかけるなど、確かに責任重大ですね(笑)。でも、この作品の主役はやはりヴァイオリン。例えば、第1楽章冒頭でヴァイオリンがG線の太い音で奏でる主題が、その後も楽章の至るところで現れるのですが、それを成田さんがどのように歌い出し、変容させ、まとめていくかにご期待ください」 そして、成田が強く推すのが、後半の冒頭に置かれた委嘱新作、酒井健治「カスム」だ。「酒井さんは11年のエリザベート国際・作曲部門グランプリで、翌年の同ヴァイオリン部門のために課題曲を書かれた方。そのファイナルの課題曲だった協奏曲が本当に素晴らしくて、彼に新作を委嘱したいという思いがプログラミングの出発点になりました。つい先日も第23回の芥川作曲賞を受賞されたばかり。酒井さんによれば、この曲のタイトルである『カスム』とは、『昔(アリストテレスが活躍していた時代)はオーロラを意味する単語でしたが、現在では“裂け目”という意味で使われています』とのこと。今回は2人それぞれにカデンツァが45秒ほど書かれているそうなので、今から曲の出来上がりが楽しみです」 取材・文:渡辺謙太郎 写真:中村風詩人

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