eぶらあぼ 2013.10月号
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No.21 大分で「りゅうきゅう」?関の一本釣りゃナー高島のサー沖でナー波にゃゆられてサアヨー言うたノー鯛を釣るわいノーハアヤンサノゴツチリ ゴツチリ船頭 ブリかな 鯛かな鯛じゃい 鯛じゃい大分県佐賀関町民謡<関の鯛釣り唄>より 大分県大分市には、アーリー・ミュージックをレパートリーとする者にとって、非常に重要な意味を持つモニュメントがある。それは「西洋音楽発祥記念碑」。フランシスコ・ザビエルが1551年に府内(大分市)でキリスト教の布教を始めたことに端を発し、この地ではキリシタンたちがオルガン伴奏による賛美歌を歌い、神父からヴィオラを習った少年たちが、領主である大友宗麟の前でこれを演奏していたのだ。 さて、その大分市に新しくオープンしたホルトホールで、古楽アンサンブル「アントネッロ」と共に演奏会を行った。滞在中の空き時間がちょうど昼食時と重なったため、独りで繁華街へと足を運んでみた。 お目当ては、大分名物「りゅうきゅう」。アジ、サバ、ブリやタイなど大分でとれた新鮮な魚の切り身を、醤油、酒、みりん、ショウガ、ゴマなどで作ったつけ汁に漬け込んだもので、これをごはんにのせると「りゅうきゅう丼」となる。いうなれば近海の魚で作るヅケ丼である。「琉球」から伝わったから「りゅうきゅう」などと名前の由来には諸説あるが、もともとは漁師の賄い料理だそうだ。入った店は駅前ロータリーからすぐのアーケード街に位置する「二代目与一」。魚介料理、郷土料理の大衆割烹といった雰囲気だ。座敷に上がると壁には「大分名物 元祖 琉球丼」の張り紙がある。期待に胸を膨らませ注文すると、ほどなくして大振りの丼が赤出しの椀と共に運ばれてきた。この店のりゅうきゅう丼には今や全国ブランドとなった「関アジ」が使われており、食べ易い大きさに切り分けられたそれが隙間なく丁寧に盛りつけられ、切り身の上には細く刻まれた青シソとネギ、ゴマがふりかけられている。これを酢飯と共に口に入れると、新鮮な魚ならではの甘みがごはんの甘酢っぱさと調和し、脳内で大分の豊かな海の恵みを歌い上げる賛歌が高らかに鳴り響く。ここに薬味が鮮やかなアクセントを加えると、もう箸が止まらない。賄いメシとしてのりゅうきゅう丼は温かいごはんを使うのが標準であるらしいが、こちらの酢飯は、切り身を温めてしまうこともなければ、酢の刺激をむやみに強調することもなく、大変好ましい。出自にふさわしく丼を一気に平らげた後、ゆっくりと赤出しを頂くと、タレと酢飯で甘くなった口中に塩味とうま味が沁みわたる。 腹がくちくなったところで、南蛮文化華やかなりし頃の大分に思いを馳せる。もしかしたら、当時のヨーロッパから持ち込まれた食文化が大分の郷土料理に影響を及ぼし、その名残を感じさせるレシピが伝えられているのではないだろうか。また大分の演奏機会があれば、少し滞在期間を延長して、その辺りの研究に勤しもう。もちろん温泉付きで♪千葉大学卒業。同学大学院修了。東京芸術大学声楽科卒業。1999年よりイタリア国内外劇場でのオペラ、演奏会に出演。放送大学、学習院生涯学習センター講師。在日本フェッラーラ・ルネサンス文化大使。バル・ダンツァ文化協会創設会員。日本演奏連盟、二期会会員。「まいにちイタリア語」(NHK出版)、「教育音楽」(音楽之友社)に連載中。著作「イタリア貴族養成講座」(集英社)、CD「イタリア古典歌曲」(キングインターナショナル)「シレーヌたちのハーモニー」(Tactus)平成24年度(第63回)芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。253

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