eぶらあぼ 2013.10月号
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227 西村の筆先は相変わらず多彩で、近作を中心にまとめられたこのアルバムでもヒンズー教のヴィシュヌ神をピアノで描いたかと思えば、京劇の天女の舞をギターに歌わせてみせる。その語り口の幅広さ。静かな水面に落ちる水滴のように、核となる音のまわりにハレーションを起こさせたり(星の鏡)、細かい音符を顫動させて波のうねりを作ってみたり(ヴィシュヌの臍)、音の塊の中に東洋風の旋律をしのばせてみたり(天女散花)、官能的かつ自由自在だ。それらの源流は1990年に書かれた「光の蜜」に、シンプルに表れている。どの曲も板倉康明率いる東京シンフォニエッタが精密に再現している。(江藤光紀)天女散花〜東京シンフォニエッタプレイズ西村朗2西村朗:◎星の鏡 ◎ヴィシュヌの臍 ◎光の蜜 ◎ギター協奏曲「天女散花」板倉康明(指揮)東京シンフォニエッタ藤原亜美(ピアノ)鈴木大介(ギター) ドイツに本拠を置くカルテットの当レーベル6枚目のアルバム。彼らは、世界的に活動している数少ない日本の四重奏団の一つであり、結成20年を越えた練達のアンサンブルである。本作はまず選曲が妙味。師弟たる両大家の同時期の作品、ハイドンの25年離れた作品を集め、しかもベートーヴェンはピアノ・ソナタ第9番の編曲版だ。見通しの良さと馥郁たる響きを両立させた演奏も非常に密度が濃く、音楽が終始躍動しているので、聴いていて実に愉しい。中でもベートーヴェンの作品が原曲よりチャーミングな点に驚かされる。企画も演奏も生彩に充ちた好盤。(柴田克彦)ハイドン:「ヴェネツィアの競艇」「五度」 他/ロータス・カルテット◎ハイドン:弦楽四重奏曲作品76-2「五度」 ◎ベートーヴェン:弦楽四重奏曲ヘ長調Hess34(ピアノ・ソナタ第9番の作曲者による編曲) ◎ハイドン:弦楽四重奏曲作品20-4「ヴェネツィアの競艇」ロータス・カルテット 昨シーズンのツアーで世界の聴衆の前で演奏を重ね、熟したレパートリーとなったドビュッシーを録音。冒頭の2つのアラベスクから、優しく、一点の曇りもない辻井ならではの明るい音に魅了される。「版画」では、繊細で粒立ちの良い音が、まるで空気の粒子さながらに、大気と香りを再現するようだ。「喜びの島」は、統制の効いたすがすがしさを持ちながら、豊かな情感を表現する。静謐な輝きをたたえた「月の光」、儚げにアルバムを締めくくる「夢」には、歌うような自然な息遣いが感じられる。極めて丁寧に鳴らされる一つひとつの音が、不純物の混ざらない特別なドビュッシーの世界を描く。(高坂はる香)月の光〜辻井伸行playsドビュッシードビュッシー:◎2つのアラベスク ◎ベルガマスク組曲 ◎版画 ◎喜びの島 ◎夢辻井伸行(ピアノ) 日本音楽コンクール第1位などを受賞し、現在日本フィルの奏者を務めながらソロや室内楽でも活躍している、ホルン界期待の星のデビュー盤。同楽器のオリジナル作品のみを集めた選曲に、自信と主張がうかがえる。まずは全体的に、柔らかな音色とまろやかなタンギングが魅力的。F.シュトラウスやライネッケのロマン派作品は、歌い口がなめらかだし、バルボトゥ、キルヒナーなど20世紀後半の曲では、鋭さや辛みも加えて自在性をみせる。バルボトゥの無伴奏曲は特に聴きもの。何よりこうした演目で、技巧面のみならず音楽自体が耳を惹き付ける点に感心しきり。(柴田克彦)アルファ〜ホルン・オリジナル作品集/日にっぱし橋辰たつ朗お◎フランツ・シュトラウス:主題と変奏 ◎ライネッケ:ノットゥルノ ◎ニールセン:カント・セリオーソ ◎ドゥファイ:アルファ ◎バルボトゥ:独奏ホルンのための5つの詩的な小品 ◎キルヒナー:3つの詩曲日橋辰朗(ホルン)室伏琴音(ピアノ)収録:2011年7月,2012年10月、東京文化会館小ホール(ライヴ)カメラータ・トウキョウ CMCD-28283 ¥2940収録:2012年11月,12月、品川区立文化センターナミ・レコード WWCC-7731 ¥28352013年7月、ベルリン、テルデックス・スタジオエイベックス・クラシックスAVCL-25794 ¥3150収録:2013年5月、ヨコスカ・ベイサイド・ポケットマイスター・ミュージックMM-2160 ¥2957CDCDCDCD

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